この記事でわかること
- 化粧品のポリ乳酸と、注射するポリ乳酸の違い
- 注射でコラーゲンがつくられるしくみと副作用
- 生分解性とマイクロプラスチックの関係
「塗るポリ乳酸」「内側からハリを」という言葉を見かけると、ポリ乳酸を塗るだけで注射と同じようにハリが出るのか、気になりますよね。
結論から言うと、化粧品に入っているポリ乳酸は、洗顔料などのスクラブの粒として肌の表面で働く成分です。コラーゲンがつくられるという話は、美容医療で医師が真皮に注射したときのもので、化粧品を塗る話とは別ものです。まずは、ポリ乳酸がどんな素材なのかから見ていきましょう。
ポリ乳酸は、乳酸がつながった、体の中で分解される素材
ポリ乳酸は、乳酸がたくさんつながってできたプラスチックの一種です。体の中では水と反応して少しずつ乳酸に分かれていくので、医療の素材として広く使われてきました。
同じポリ乳酸でも、化粧品、美容医療、医療の素材と使われ方が分かれます。
スクラブの粒
洗顔料などに入る
注射の材料
医師が注射する
吸収される素材
手術の糸やネジ
たとえば、体に吸収される手術用の糸や、骨を留めるネジです。日本でも、ポリ乳酸にハイドロキシアパタイトを混ぜた吸収性の骨のネジが医療機器として承認されていて、体の中で徐々に強度が下がるように設計されています。医療用や化粧品用の薄い膜の原料にも使われます。
ポリ乳酸には、L体という形の乳酸だけがつながったポリL乳酸と、D体とL体が不規則に並んだポリDL乳酸があります。ポリL乳酸は一部が結晶になった構造、ポリDL乳酸は結晶をつくらない構造で、性質の違う別の素材です。クリニックの案内では、それぞれPLLA、PDLLAと略されることもあります。
「ポリ乳酸」と書かれていたら、化粧品の話か、医療の話かをまず分けて読みましょう。
化粧品のポリ乳酸は、肌の表面で働くスクラブの粒
化粧品に入っているポリ乳酸は、肌の表面で働くスクラブの粒です。アメリカの化粧品成分の安全性評価で、ポリ乳酸は研磨剤、つまりスクラブの粒として評価され、今の使い方と濃度なら化粧品として安全と結論づけられています。
スクラブの粒は、洗うときに肌の表面をこすって汚れを落とす手助けをし、そのまま洗い流されます。ポリ乳酸は分子がとても大きいので、肌から吸収されにくい成分でもあります。アメリカでは18の製品に使われ、洗浄用の製品で最大5%の濃度でした。
化粧品のポリ乳酸が働くのは、枠で囲んだ肌の表面をこする段階です。
泡立てる
こする
洗い流す
化粧品のポリ乳酸について言えるのは、スクラブの粒として肌の表面で働くところまでです。
コラーゲンの話は、医師が注射する美容医療のもの
ポリ乳酸でコラーゲンがつくられるという話は、医師が真皮の深いところに注射する美容医療のものです。粒が真皮に置かれ、そのまわりで体が反応することで起こるからです。
アメリカで承認されている注射剤は、ポリL乳酸の細かい粒に、カルボキシメチルセルロースやマンニトール、注射用の水を加えたもので、真皮の深いところに格子状に注射します。すると粒のまわりで体が異物に反応し、軽いものから中くらいの炎症が長く続きます。その反応の中で新しいコラーゲンの線維がつくられ、粒そのものはゆっくり乳酸に分解されていきます。効果は年単位で続くとされます。
アメリカでは、この注射剤がほうれい線や顔のしわ、のちに頬の細かいしわを修正する医療機器として承認されています。最初の承認は、HIVに感染した人の顔の脂肪が減ってやせてしまう症状を補う目的でした。韓国でも、ポリDL乳酸とヒアルロン酸を皮下に注射する、顔のしわ向けの医療機器として許可を受けた製品があります。
化粧品を塗っても、粒は真皮に置かれません。コラーゲンの話は、医療機器を医師が注射する場合と覚えておきましょう。
「塗る」研究は、肌に穴を開ける施術とセットの条件
「塗るポリ乳酸」の研究は、医療機関で肌に細かい穴を開ける施術とセットで行われたものです。家で化粧品を塗るのとは、条件がまったく違います。
針で肌に細かい穴を開けながら熱を加える施術の直後に、ポリL乳酸の液を塗ると、塗った側でニキビ跡の凹みや肌の質感がはっきりよくなったという結果があります。ポリ乳酸が肌の中に入ったのは、施術で開けた通り道があったからです。
「塗る」と書かれていても、医療機関での施術の話かを確かめると、化粧品と混ざらずにすみます。
注射では、数か月後にしこりが出ることがある
化粧品のポリ乳酸は安全と評価されている成分ですが、注射では、数か月たってから小さなしこりやぶつぶつが出ることがあります。注射した粒のまわりで体が反応する、というしくみそのものに関わるからです。
注射では、腫れや痛み、赤み、内出血がよく起こるほか、注射した人の17.2%に、しこりやぶつぶつが出たという結果があります。多くは注射の数か月後に出て、自然に消えたものもあれば、ステロイドの注射や手術で取り除いたものもあります。ケロイドや盛り上がった傷あとができやすい人は使えません。注射で入れる材料全般では、まれに血管に入って血の流れをふさぎ、皮膚が壊死したり、失明を含む見え方の異常や脳卒中が起きたりすることもあり、アメリカではこうした材料をネットで買わないよう呼びかけています。
日本では、美容医療で使われる薬や材料の中に、国の承認を受けていないものもあります。医療広告のガイドラインでは、未承認の製品を使うクリニックは、未承認であること、医師の個人輸入などの入手経路、国内に同じような承認品があるかどうか、海外で承認されている場合はその国の添付文書にある重大な副作用などを、日本語でわかりやすく示す決まりです。受ける前に、クリニックのサイトにこうした説明があるかを確かめましょう。
国民生活センターには、美容医療の相談が2024年度に10,744件寄せられていて、美容注射を契約したあと、しこりが残るリスクがあると帰宅してから知った、という相談もあります。施術の前にリスクや副作用を確かめ、困ったときは消費者ホットラインの188に相談できます。
生分解性でも、海で分解されるとは限らない
「生分解性だから、海に流れても分解される」と思いますよね。でも、ポリ乳酸は、海のどこでも分解されるわけではありません。
深海の海底に置いたサンプルでは、ほかの生分解性プラスチックが分解された一方、ポリ乳酸はふつうのプラスチックと同じくまったく分解されなかったという結果があります。表面に微生物もほとんど付いていませんでした。
化粧品では、業界団体が2016年3月に、洗い流すスクラブ製品に入っていたプラスチックの粒、マイクロビーズの使用をやめるよう会員企業に求めています。EUの規則でも、決められた試験で分解することが証明されたポリマーだけが、合成ポリマーの細かい粒の制限の対象外です。ポリマーとマイクロプラスチックの違いも知っておくと安心です。
「生分解性」は、どんな場所でも分解されるという意味ではないと覚えておきましょう。
まとめ
- ポリ乳酸は乳酸がつながった素材で、体に吸収される手術の糸や骨のネジにも使われます
- 化粧品のポリ乳酸はスクラブの粒として肌の表面で働き、肌から吸収されにくい成分です
- コラーゲンがつくられるという話は、医師が真皮に注射する美容医療のものです
- 「塗る」研究は、医療機関で肌に穴を開ける施術とセットの条件で、注射では数か月後にしこりが出ることがあります
- ポリ乳酸は深海ではまったく分解されなかった結果があり、生分解性でも海で分解されるとは限りません
「ポリ乳酸配合」という言葉を見たら、それが肌の表面で働く化粧品の話なのか、医療機関での施術の話なのかを、まず分けて考えてみてください。
よくある質問
ポリ乳酸を塗ると肌のコラーゲンは増えますか?
化粧品のポリ乳酸は、スクラブの粒として肌の表面で働く成分です。コラーゲンがつくられるという話は、美容医療で医師が真皮に注射したときのものです。
化粧品のポリ乳酸は何のために入っていますか?
スクラブの粒として入っています。アメリカの安全性評価では研磨剤として評価され、今の使い方と濃度なら安全と結論づけられました。分子が大きく、肌から吸収されにくい成分です。
「塗るポリ乳酸」の研究はどんな条件ですか?
医療機関で針を使って肌に細かい穴を開けた直後に塗る施術の条件です。塗った側でニキビ跡の凹みや肌の質感がよくなったという結果があります。
ポリ乳酸の注射にはどんな副作用がありますか?
腫れや痛み、赤み、内出血のほか、数か月たってから小さなしこりやぶつぶつが出ることがあります。注射した人の17.2%に出たという結果があります。
ポリ乳酸は生分解性だから海でも分解されますか?
海のどこでも分解されるわけではありません。深海の海底に置いたサンプルでは、ポリ乳酸はふつうのプラスチックと同じく、まったく分解されませんでした。
この記事で参照した情報
- 武蔵野化学研究所「高純度 医療材料用ポリ乳酸」(メーカーの製品ページ)
- U.S. FDA「FDA-Approved Dermal Fillers」(2020年11月9日更新)
- PMDA 添付文書「オステオトランス・プラス」(帝人メディカルテクノロジー、承認番号 21500BZZ00473A01、2025年4月改訂 第16版)
- Lee KWA, et al. Poly-d,l-lactic Acid (PDLLA) Application in Dermatology: A Literature Review. Polymers 2024;16(18):2583
- Raj PS, et al. Safety Assessment of Polyhydroxystearic Acid, Poly(3-Hydroxyoctanoic Acid), and Polylactic Acid as Used in Cosmetics. Int J Toxicol 2026 (DOI 10.1177/10915818261469141)
- Cosmetic Ingredient Review「Safety Assessment of Polyhydroxystearic Acid, Poly(3-Hydroxyoctanoic Acid), and Polylactic Acid」報告書案(2023年2月10日)
- U.S. FDA「Summary of Safety and Effectiveness Data: Sculptra Aesthetic」(P030050/S002、2009年)
- U.S. FDA「Sculptra Aesthetic」添付文書(2009年7月)
- U.S. FDA「Summary of Safety and Effectiveness Data: Sculptra」頬のしわへの適応追加(P030050/S039、2023年4月18日承認)
- U.S. FDA「Dermal Fillers (Soft Tissue Fillers)」(2023年7月6日更新)
- VAIM「Juvelook」製品ページ(メーカーの説明)
- Sickles CK, et al. Poly-L-Lactic Acid. StatPearls, NCBI Bookshelf(2024年2月28日更新)
- Kupwiwat R, et al. Transdermal Delivery of Poly-l-Lactic Acid via Fractional Microneedle Radiofrequency for Atrophic Acne Scars: A Split-Face Randomized Study in Fitzpatrick Skin Types III to V. Dermatol Ther 2026
- 厚生労働省「医療広告ガイドラインに関するQ&A」(平成30年8月作成)
- 厚生労働省「その美容医療、ちょっと待って!」
- 国民生活センター「美容医療サービス(各種相談の件数や傾向)」(2026年7月31日更新)
- 国民生活センター「増加する美容医療サービスのトラブル」(2023年8月30日)
- 東京大学大学院農学生命科学研究科「生分解性プラスチックは深海でも分解されることを実証」(2024年1月26日)
- Commission Regulation (EU) 2023/2055(2023年9月25日、合成ポリマー微粒子の制限)
- 環境省請負調査「平成28年度国内外におけるマイクロビーズの流通実態等に係る調査業務報告書」(三菱化学テクノリサーチ、平成29年3月)
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