この記事でわかること
- トレハロースが角層で何をしているのか
- でんぷんから作る原料と、虫の話との違い
- 「毒性」の話の正体と、化粧品・食品での安全性
化粧水やシートマスクの成分表で見かけるトレハロース。何のために入っているのか、ネットで見かける「毒性」の話は気にしたほうがいいのか、気になりますよね。
結論から言うと、トレハロースはブドウ糖が2つつながった糖で、化粧品には水を抱えて角層のうるおいを保つために入っています。「毒性」の話は、食べたトレハロースと腸の中の細菌の話で、肌に塗る化粧品の話ではありません。まずは、肌の上での働きから見ていきましょう。
トレハロースは、水を抱えて角層のうるおいを保つ
トレハロースは、水を抱えて保つ保湿剤として化粧品に入っています。肌の乾燥は、いちばん外側の角層から水分が逃げることで起きるので、水を抱える成分が役に立つからです。
角層は、表面をおおう皮脂膜、細胞の中で水を抱える天然保湿因子、細胞のすき間を埋める細胞間脂質の3つでうるおいを保っています。細胞間脂質の約50%はセラミドです。このバランスが崩れたり、乾いた空気にさらされたりすると、角層の水分が逃げて、かさつきにつながります。
トレハロースは水を抱えて、角層のうるおいを保ちます。
トレハロースは、こうして逃げていく水を抱えておく側の成分です。化粧品成分の安全性を評価するアメリカの専門家委員会の報告では、化粧品での役目は保湿剤と香味剤とされています。ヨーロッパの化粧品の業界団体も、製品の中の水分を保つ保湿剤として載せ、肌の水分を保ってやわらかくなめらかにする働きを挙げています。
水を抱える保湿成分という点では、成分表の上のほうによく並ぶグリセリンと同じ役目です。違うのは成り立ちで、グリセリンは小さなアルコール、トレハロースは糖です。保湿は、水を抱える成分と、上からふたをする油の成分を組み合わせるのが基本で、トレハロースは水を抱える側を受け持ちます。
化粧品として言えるのは、肌にうるおいを与える、乾燥を防ぐといった範囲の働きです。
トレハロースは、ブドウ糖が2つつながった安定した糖
トレハロースは、ブドウ糖が2つつながった、二糖と呼ばれる糖の一種です。2つのブドウ糖がそれぞれの1番どうしで結びついているため還元性をもたず、化学的に反応しにくく、とても安定しているとされます。
ブドウ糖2つが1番どうしで結びつくので、還元性がなく、とても安定しています。
自然界では、キノコなどの菌類や酵母、細菌、昆虫に見られ、ミコースやマッシュルーム糖という別名もあります。化粧品の成分表示の名前は「トレハロース」で、化粧水や美容液、シートマスク、ふき取りパッドの全成分表示の中ほどから後ろに並んでいるのをよく見かけます。
似た名前の硫酸トレハロースNaやグリコシルトレハロースは、表示の名前が別の成分です。トレハロースとは分けて考えましょう。
原料はでんぷん。2つの酵素を働かせて作る
キノコや虫からとっているのかな、と思う人もいるかもしれません。でも、いま化粧品や食品に使われるトレハロースは、でんぷんに微生物由来の2種類の酵素を働かせて作る方法が中心です。
ある種の細菌などが、2種類の酵素を使ってでんぷんからトレハロースを効率よく作ることが見いだされ、この技術で、でんぷんから安く大量に作れるようになりました。食品添加物としての評価の資料にも、製造に使う酵素と、その酵素をつくる微生物の名前が挙げられています。
トレハロースは保水力の高い糖として、食品や医療の分野でも使われています。化粧品のトレハロースも、でんぷんから作られた糖と考えて大丈夫です。
乾燥に強い虫の話は、虫の体の中の話
トレハロースは、乾燥に強い生き物の話とセットで紹介されることがあります。ただし、それは虫が自分の体の中にためて起きる話で、肌に塗ったときの話ではありません。
たとえば、ネムリユスリカという虫の幼虫は、体がからからに乾くときに、乾いた体の重さの約18%ものトレハロースを体の中にためるという結果があります。トレハロースが水の代わりになったり、ガラスのように固まったりして、体を乾燥から守ると考えられています。
一方で、乾燥に強いことで有名なクマムシは、トレハロースをほとんどためません。クマムシでは、クマムシだけがもつタンパク質が、乾燥に耐えるのに欠かせないとされています。
どちらも、虫が細胞の中にためて起きる話です。「クマムシのように肌を守る」といった言い方は生き物の話と化粧品の話を混ぜているので、化粧品のトレハロースは肌にうるおいを与える保湿剤として見ておくのが正確です。
化粧品では、今の使い方なら安全という評価
化粧品のトレハロースは、今の使い方と濃度なら安全という評価が出ています。アメリカの専門家委員会が、トレハロースを含む25の単糖・二糖類をまとめて評価し、そう結論づけているからです。
この評価では、ブドウ糖や果糖、ショ糖、麦芽糖、乳糖などが同じ仲間としてまとめられ、食品として口から取ったときの安全性の資料も、判断の根拠に使われています。
アレルギーが心配な人もいると思いますが、安全と評価された成分でも、肌に合うかどうかは人によって違います。また、キノコを食べて起きるアレルギーの話題でトレハロースの名前が出ることがありますが、それは食べたキノコの話で、でんぷんから作って精製した化粧品のトレハロースとは分けて考えます。
使ってみて赤みやかゆみが出たら、使うのをやめましょう。
「毒性」の話は、食べたときの腸の細菌の話
「トレハロース 毒性」という言葉を見ると、化粧品も心配になりますよね。でも、この話の対象は食べたトレハロースと腸の中の細菌で、皮膚や化粧品の話は出てきません。
もとになったのは、流行した型のクロストリディオイデス・ディフィシルという腸の細菌について、マウスのえさに入れたトレハロースがこの菌の毒性を高めたという結果です。食品添加物として広まったことが流行型の出現に関わったのでは、という考えも出されました。
その後の研究のまとめでは、トレハロースを利用しやすい菌の変化は流行型にもそうでない型にも広く見られ、病気の重さとは結びつかなかったことなどから、ふだんの食事で取っても感染のリスクは高まらないとされています。
食品としては、食品添加物を評価する国際的な専門家会議が、1日に取ってよい量を「特定しない」としています。日本では既存添加物、アメリカでは一般に安全と認められた食品の成分として扱われています。食べたトレハロースは小腸の粘膜にある酵素で分解され、この酵素が少ないごく一部の人では、おなかの症状が出ることがあるとされます。
腸の中の細菌の話は、肌に塗る化粧品とは別の話です。化粧品は化粧品としての評価で見ておけば大丈夫です。
まとめ
- トレハロースはブドウ糖が2つつながった還元性のない糖で、化粧品には水を抱える保湿剤として入っています
- 角層から逃げていく水を抱え、肌にうるおいを与えて乾燥を防ぐ範囲で働きます
- 原料はでんぷんで、微生物由来の2種類の酵素を働かせて作ります
- ネムリユスリカやクマムシの話は虫の体の中の話で、肌に塗ったときの話ではありません
- 化粧品では今の使い方と濃度で安全という評価で、「毒性」の話は食べたときの腸の細菌の話です
トレハロースは、化粧品の中で水を抱える「糖」の保湿成分です。虫の話や食べ物の話とは分けて、うるおいを与える成分として成分表を読んでみてください。
よくある質問
トレハロースとは化粧品の何の成分ですか?
ブドウ糖が2つつながった還元性のない糖で、化粧品には水を抱えて保つ保湿剤として入っています。成分表示の名前は「トレハロース」で、化粧水や美容液、シートマスクなどに使われています。
化粧品のトレハロースにはどんな効果がありますか?
角層から逃げていく水を抱えて、うるおいを保つ働きです。化粧品として言えるのは、肌にうるおいを与え、乾燥を防ぐ範囲です。
トレハロースの原料は何ですか?
原料はでんぷんです。でんぷんに微生物由来の2種類の酵素を働かせて作る方法が中心で、この技術で安く大量に作れるようになりました。
トレハロースに毒性があるというのは本当ですか?
「毒性」の話のもとは、食べたトレハロースと腸の細菌を調べたマウスの結果で、肌に塗る化粧品の話ではありません。その後の研究のまとめでは、ふだんの食事で取っても感染のリスクは高まらないとされています。
トレハロースでアレルギーは起きますか?
化粧品のトレハロースは、アメリカの専門家委員会が、今の使い方と濃度で安全と評価しています。ただ、肌に合うかどうかは人によって違うので、赤みやかゆみが出たら使うのをやめましょう。
この記事で参照した情報
- 国立健康・栄養研究所「セラミド(N-アシルスフィンゴシン)」素材情報
- Fiume MM, et al. Safety Assessment of Monosaccharides, Disaccharides, and Related Ingredients as Used in Cosmetics. Int J Toxicol 2019;38(1_suppl):5S-38S
- Cosmetics Europe「COSMILE Europe」Trehalose
- 谷口肇「世界に誇る日本の糖質関連酵素研究」生物工学 91巻1号(2013年、日本生物工学会)
- 医薬基盤・健康・栄養研究所「トレハロース、ミコース、ミコシド、マッシュルーム糖」
- 食品安全委員会 第35回企画専門調査会 資料「食品安全委員会が自ら行う食品健康影響評価の案件候補について」(2010年9月28日)
- JECFA. WHO Food Additives Series 46: Trehalose
- Watanabe M, Kikawada T, et al. Mechanism allowing an insect to survive complete dehydration and extreme temperatures. J Exp Biol 2002;205:2799-2802
- Nguyen K, et al. Trehalose and tardigrade CAHS proteins work synergistically to promote desiccation tolerance. Commun Biol 2022;5:1046
- Boothby TC, et al. Tardigrades Use Intrinsically Disordered Proteins to Survive Desiccation. Mol Cell 2017;65(6):975-984.e5
- Collins J, et al. Dietary trehalose enhances virulence of epidemic Clostridium difficile. Nature 2018;553:291-294
- Buckley AM, Moura IB, Wilcox MH. Is there a causal relationship between trehalose consumption and Clostridioides difficile infection? Curr Opin Gastroenterol 2021;37(1):9-14
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