この記事でわかること
- 髪がマイナス、成分がプラスというしくみ
- トリートメントの骨組みと名前の意味
- EUの濃度の上限と刺激についての評価
トリートメントの成分表でよく見かける「ベヘントリモニウムクロリド」。長い名前で、どうして髪がなめらかになるのか、頭皮についても大丈夫なのか気になりますよね。
結論から言うと、マイナスの電気を帯びた髪に、プラスの電気でくっついて表面をすべりやすくし、指通りをよくする成分です。刺激をもちうるので濃度の上限は決められていますが、その範囲で広く使われています。まずは、髪の上で何が起きているのかから見ていきましょう。
ベヘントリモニウムクロリドは、マイナスの髪にプラスの頭でくっつく
ベヘントリモニウムクロリドは、プラスの電気をもつ頭の部分で、マイナスの電気を帯びた髪にくっつきます。髪とこの成分は、電気の向きが反対だからです。
髪は、電気的につり合うpHが約3.67と酸性側にあるため、ふだんの状態ではマイナスの電気を帯びています。ベヘントリモニウムクロリドは、プラスの電気をもつカチオン界面活性剤です。プラスの頭で髪にくっつくと、油になじむ長い鎖の部分が髪の表面に並びます。
マイナスの電気を帯びた髪に、プラスの頭がくっつき、油になじむ鎖が表面をすべりやすくします。
表面に並んだ鎖が髪どうしのこすれを減らすので、指通りがよくなり、静電気も起きにくくなります。マイナスの髪にすばやく結びつき、髪の広がりを抑えるともされています。
なめらかさの理由は、マイナスとプラスが引き合う電気の性質です。
傷んだ髪ほど、マイナスの電気は増えやすい
ブリーチなどで傷んだ髪ほど、マイナスの電気は増えやすくなります。髪の中のシスチンという部分の結びつきが酸化されて、システイン酸に変わるからです。
システイン酸にできた酸性の部分は、水の中でマイナスの電気を帯びます。そのマイナスに、プラスの頭をもつベヘントリモニウムクロリドがくっつきます。
傷んだ髪ほどマイナスが増え、枠で囲んだところでベヘントリモニウムクロリドがくっつきます。
などで傷む
変わる
増える
成分がつく
ただし、化粧品として言えるのは「クシどおりをよくする」「毛髪の帯電を防止する」といった範囲です。傷んだ髪を元に戻すものではなく、表面の手触りを整える成分と考えておきましょう。
トリートメントは、カチオン界面活性剤と高級アルコールが骨組み
トリートメントの基本の骨組みは、カチオン界面活性剤と高級アルコールの組み合わせです。リンスやトリートメントは、この2つを土台にして組み立てられているからです。
リンスやコンディショナー、トリートメントは、ぬれた髪の表面にくっつきやすいカチオン界面活性剤と高級アルコールの土台に、シリコーンやエステル油などの油で手触りの特徴を出すように組み立てられているとされます。高級アルコールには、セチルアルコールやステアリルアルコール、その2つを混ぜたセテアリルアルコールなどが使われます。
シャンプーにも、プラスの電気をもつ成分が入っていることがあります。ポリクオタニウムなどのプラスの電気をもつポリマーは、すすぎで薄まったときに洗浄成分と小さなかたまりをつくって髪に付き、髪をなめらかにするとされています。
成分表で、ベヘントリモニウムクロリドとセテアリルアルコールなどの高級アルコールが並んでいたら、トリートメントの骨組みだと読めます。
「トリモニウム」はプラスの頭、「ベヘン」は長い鎖
名前の「トリモニウム」はプラスの電気をもつ頭、前につく「ベヘン」は鎖の長さを表しています。名前を分けると、しくみがそのまま読めます。
トリモニウムは、窒素にメチル基という小さなかたまりが3つ付いた、プラスの電気をもつ部分です。前につく言葉は鎖の長さで、セトリモニウムクロリドは炭素16個、ステアルトリモニウムクロリドは18個、ベヘントリモニウムクロリドは22個の鎖をもちます。最後のクロリドは、塩化物であることを表しています。
3つとも、界面活性剤、髪のコンディショニング剤、静電気を防ぐ成分として使われています。
ベヘントリモニウムクロリドの3つの役割と、化粧品として言える効能の言葉です。
界面活性剤
水と油をなじませる
手触りを整える
「クシどおりをよくする」
静電気を防ぐ
「毛髪の帯電を防止する」
コンディショナーでは、ステアラミドプロピルジメチルアミンという、アミドアミンの仲間のプラスの成分も使われます。「〇〇トリモニウムクロリド」を見かけたら、プラスの頭で髪にくっつく仲間と覚えておけば十分です。
刺激をもちうるため、EUは製品ごとに濃度の上限を決めている
トリモニウムの仲間は皮膚への刺激をもちうるため、EUは製品の種類ごとに濃度の上限を決めています。
EUの消費者の安全を評価する科学委員会は、特に組み合わせて使うと刺激が出うることを別にすれば、この3つの成分は一定の濃度より低ければ消費者の健康へのリスクにならないと結論づけました。これを受けてEUの規則は、髪に使う洗い流す製品、洗い流さない製品、顔に使う洗い流さない製品に分けて上限を決め、組み合わせたときの合計の量も制限しています。
ベヘントリモニウムクロリドの上限は、洗い流すヘア製品で5.0%、洗い流さないヘア製品と顔の洗い流さない製品で3.0%です。セトリモニウムクロリドとステアルトリモニウムクロリドはより低く、それぞれ2.5%、1.0%、0.5%です。この上限は防腐以外の目的で使う場合のもので、製品の防腐剤として使うときは0.1%までと別に決められています。
米国の化粧品成分の安全性を評価する専門家の委員会も、トリモニウムの仲間について、刺激を起こさないように処方すれば今の使い方と濃度で安全と結論づけています。上限は、洗い流すか残すか、髪か顔かで変わると覚えておきましょう。
「カチオンは毒」は言い過ぎ
トリートメントのカチオンは毒、という話を聞くと、使い続けていいのか不安になりますよね。でも、この話は、刺激をもちうるという事実を大きくしすぎたものです。
刺激が規制の理由になっているのは本当ですが、EUは濃度の上限つきで使うことを認めていて、米国の委員会も刺激を起こさないように処方すれば安全としています。
頭皮につけてはいけない、という話については、上限が洗い流すか残すか、髪か顔かで分けられていることがヒントになります。洗い流すタイプか洗い流さないタイプかを確かめて、製品ごとの使い方の指示どおりに使うのが基本です。
使い方を守れば心配しすぎなくて大丈夫です。頭皮や顔に赤みやかゆみが出たら、使うのをやめましょう。
まとめ
- 髪はふだんマイナスの電気を帯びていて、プラスの電気をもつベヘントリモニウムクロリドがくっつきます
- 油になじむ長い鎖が表面をすべりやすくし、指通りをよくして静電気を防ぎます
- 傷んだ髪ほどマイナスは増えやすいものの、髪を元に戻すものではなく、表面の手触りを整える成分です
- トリートメントは、カチオン界面活性剤と高級アルコールを骨組みにつくられています
- 皮膚への刺激をもちうるため、EUは洗い流すか残すかで濃度の上限を分けています
ベヘントリモニウムクロリドは、髪の電気の性質を利用して手触りを整える成分です。洗い流すタイプか残すタイプかを確かめて、使い方どおりに使ってみてください。
よくある質問
ベヘントリモニウムクロリドで髪がなめらかになるのはなぜですか?
マイナスの電気を帯びた髪に、プラスの電気をもつこの成分がくっつくためです。油になじむ長い鎖が表面をすべりやすくし、こすれと静電気を減らします。
ベヘントリモニウムクロリドで傷んだ髪は元に戻りますか?
元に戻すものではありません。化粧品として言えるのは「クシどおりをよくする」「毛髪の帯電を防止する」といった範囲です。
セトリモニウムクロリドとの違いは何ですか?
鎖の長さが違います。セトリモニウムクロリドは炭素16個、ステアルトリモニウムクロリドは18個、ベヘントリモニウムクロリドは22個の鎖をもちます。
トリートメントのカチオンは毒ですか?
毒というのは言い過ぎです。皮膚への刺激をもちうるためEUは濃度の上限を決めていますが、上限つきで使うことは認められています。米国の専門家の委員会の評価でも、刺激を起こさない処方なら安全という結論です。
EUではどれくらいまで配合できますか?
EUの規則では、ベヘントリモニウムクロリドは洗い流すヘア製品で5.0%までです。洗い流さないヘア製品と顔の洗い流さない製品では3.0%までです。
この記事で参照した情報
- Fernandes C, Medronho B, Alves L, Rasteiro MG. On Hair Care Physicochemistry: From Structure and Degradation to Novel Biobased Conditioning Agents. Polymers 2023;15(3):608
- Gavazzoni Dias MF. Hair cosmetics: an overview. Int J Trichology 2015;7(1):2-15
- Personal Care Products Council. INCI Nomenclature Conventions(2022年4月版)
- Commission Regulation (EU) No 866/2014 of 8 August 2014(化粧品規則 附属書III・Vの改正)
- Cosmetic Ingredient Review. Trimoniums 会議資料(2010年6月。1997年の最終報告の結論を引用)
- Becker LC, et al. Safety Assessment of Trimoniums as Used in Cosmetics. Int J Toxicol 2012;31(6 Suppl):296S-341S
- Cosmetic Ingredient Review. Safety Assessment of Fatty Acid Amidopropyl Dimethylamines as Used in Cosmetics. Final Report (2014年6月24日)
- 日本化粧品技術者会(SCCJ) 化粧品用語集「リンス」
- 山本義昭・小野太一「シャンプー中でのコアセルベートの生成と使い心地の関係」日本化粧品技術者会誌 2023;57(1):50-57
- 花王 ヘアケアサイト「リンス・コンディショナー・トリートメント」
- 厚生労働省医薬食品局長通知「化粧品の効能の範囲の改正について」(平成23年7月21日 薬食発0721第1号)
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