この記事でわかること
- 水を抱える保湿と、ふたをする保湿のしくみの違い
- 薬・薬用化粧品・化粧品で異なる区分と注意点
- 両方使うときの塗る順番と、使い心地での選び方
ヘパリン類似物質もワセリンも皮膚科でよく出される保湿の薬ですが、何が違うのか、両方使うときはどちらを先に塗ればいいのか迷いますよね。
結論から言うと、2つの違いは保湿のしかたで、ヘパリン類似物質は水を抱えて肌をうるおし、ワセリンは肌の表面をおおって水分が逃げるのを防ぎます。両方使うなら、先にヘパリン類似物質、上からワセリンが目安です。まずは、しくみの違いから見ていきましょう。
違いは、水を抱えるか、ふたをするか
ヘパリン類似物質とワセリンは、保湿のしくみそのものが違います。日本皮膚科学会の皮脂欠乏症診療の手引きでは、保湿剤を2つに分けていて、2つはそれぞれ別のグループの代表だからです。
肌のいちばん外側の角層は、水分を抱えることでうるおいを保っています。乾燥は、この角層から水分が逃げて足りなくなることで起きます。手引きでは、水を引き寄せる成分で角層の水分を直接ふやすモイスチャライザーと、肌をおおって水分の蒸発を抑え、間接的に角層の水分をふやすエモリエントに分けています。ヘパリン類似物質は前者、ワセリンは後者の代表です。
水を抱えるヘパリン類似物質と、ふたをするワセリンは、役目の違う組み合わせです。
水を抱える
表面をおおう
うるおいを保つ
大学病院の薬剤部の資料でも、ヘパリン類似物質は角質層にしみ込んで水分を抱えこみ、ワセリンは角質層にしみ込まずに表面にとどまって、水分の蒸発を防ぐとされています。それぞれの成分のくわしい性質は、ヘパリン類似物質の記事で紹介しています。
ヘパリン類似物質は水を与える役、ワセリンはふたをする役と覚えておくとわかりやすいです。
角層をうるおすのはヘパリン類似物質、逃がさないのはワセリン
角層の水分をふやす力はヘパリン類似物質のほうが強く、水分を逃がさない力はワセリンの得意分野です。片方は水を抱え、片方は水の出口をふさぐ、という役目の違いがあるからです。
手引きでは、ヘパリン類似物質や尿素を含むモイスチャライザーは、エモリエントよりも角層の水分をふやす効果が強いとされています。一方、ワセリンは塗った直後に角層の水分をふやす働きはなく、表面をおおうことで、その下の角層に少しずつ水分がたまっていくとされています。
ただし、水を抱える成分にも弱点があります。水を抱える成分は肌の内側からも水を引き寄せるため、それだけでは逃げる水分をかえってふやすこともあるとされ、ふたをする成分と組み合わせることがよく必要になります。
ヘパリン類似物質が角層に水を抱えさせ、上のワセリンの膜が水分の蒸発を防ぎます。
2つは競う相手というより、水を与える役と逃がさない役を分け合える組み合わせと考えると選びやすくなります。
ヘパリン類似物質は薬の成分、ワセリンは化粧品にも使える油
ヘパリン類似物質は医薬品と医薬部外品にだけ使える有効成分で、ふつうの化粧品には入れられません。一方、ワセリンは化粧品の成分でもあり、医薬品でもある油です。区分によって、言える効能が違います。
ヘパリン類似物質には、病院の薬と、薬局で買える第2類医薬品の市販薬があり、どちらも濃度は0.3%です。病院の薬の効能には「皮脂欠乏症」が、市販薬の効能には「乾皮症」「小児の乾燥性皮膚」などが含まれます。薬用化粧品とも呼ばれる医薬部外品では、製品ごとに有効成分として認められています。
ワセリンは、化粧品の成分表ではそのまま「ワセリン」と表示されます。病院で使う白色ワセリンの効能は「軟膏基剤として調剤に用いる。また、皮膚保護剤として用いる。」で、塗り薬の土台と、肌を守る薬の両方の役目をもちます。薬局で買える第3類医薬品の白色ワセリンの効能は「手足のひび,あかぎれ,皮膚のあれ,その他皮膚の保護」です。同じワセリンでも、化粧品で言えるのは「皮膚の乾燥を防ぐ」などの範囲です。
見落としやすいのは、ヘパリン類似物質の薬にも、ワセリンなどの油が土台として入っていることがある点です。たとえば市販薬のヘパリン類似物質のクリームには、添加物として白色ワセリンやパラフィンが入っているものがあります。土台の成分は製品によって違うので、同じ有効成分でも使い心地が変わると覚えておきましょう。
両方使うなら、ヘパリン類似物質が先でワセリンが後
両方を重ねるなら、先に水を抱えるヘパリン類似物質、上からワセリンでふたをする順番が目安です。ふたをする油は湿った肌に塗ったときにいちばん効果が大きいとされ、水を抱える成分は、ふたをする成分との組み合わせがよく必要とされるからです。
両方使うときは、肌が湿っているうちに水を抱えるほうを先に、ふたをするワセリンを後に塗ります。
あと
物質をのばす
薄く重ねる
塗るタイミングは、入浴や洗顔のあとが基本です。手引きでは、入浴後は角層から水分が逃げるので、直後でなくてもよいが保湿剤を塗るべきだとされています。保湿剤は1日1回より、朝と入浴後の1日2回塗るほうが効果的とされ、量は塗ったところが少しテカテカする程度が目安です。
重ねる順番に決まりはありません。病院で両方を出されているときは、塗る順番や場所は医師や薬剤師の指示に従いましょう。
べたつきが苦手なら、ヘパリン類似物質のローションや泡
使い心地の差でいちばん大きいのは、ワセリンのべたつきです。ワセリンは油の膜をつくって水分の蒸発を防ぐので、そのぶん肌の上にべたつきが残りやすいからです。
手引きでも、ワセリンはべたつきがあり、使用感に難があるとされています。寒い時期のワセリンは固くなるので、手のひらで温めてやわらかくしてから塗るとよいとされています。
ヘパリン類似物質は剤形のバリエーションが豊富で、病院の薬にはクリーム、ソフト軟膏、ローション、泡のタイプがあります。療育の医療センターの資料では、暑い夏はローション、春と秋はクリーム、乾燥する冬はワセリンが好まれるとされています。大学病院の薬剤部の資料でも、軟膏は保湿力が高いもののさらさら感は低く、ローションはさらさら感が高いとされています。
べたつきが苦手なら、ヘパリン類似物質のローションや泡から試すと続けやすいです。
広い範囲はヘパリン類似物質、しっかりおおいたい所はワセリン
体の広い範囲がかさつくときは、のびのよいヘパリン類似物質が使いやすく、水分を逃がしたくない部分をしっかりおおいたいときはワセリンが向きます。のびやすさと、膜の厚さが違うからです。
ヘパリン類似物質の市販薬の効能には、乾皮症や小児の乾燥性皮膚のほか、ひじ・ひざ・かかと・くるぶしの角化症や手足のひび・あかぎれも含まれます。ワセリンは刺激がほとんどないとされ、手足のひびやあかぎれをおおって守りたいときにも使われます。
出血しやすい病気などでヘパリン類似物質が使えない人は、どの保湿剤にするかを医師に相談しましょう。ワセリンの種類の違いはワセリンの記事、病気の治療としての保湿はアトピー性皮膚炎と保湿の記事で紹介しています。
広く塗るならヘパリン類似物質、ピンポイントでおおうならワセリンと使い分けると便利です。
ヘパリン類似物質には、使えない人が決められている
注意点の大きな違いは、ヘパリン類似物質には使ってはいけない人が決められていることです。ヘパリン類似物質には、血液を固まりにくくする作用があるからです。
病院の薬の添付文書では、禁忌として「出血性血液疾患(血友病、血小板減少症、紫斑病等)の患者」と「僅少な出血でも重大な結果を来すことが予想される患者」があげられ、理由は「血液凝固抑制作用を有し、出血を助長するおそれがある」とされています。市販薬でも同じ人は使わないことになっていて、目や目のまわり、口や鼻などの粘膜にも使いません。病院の薬では「潰瘍、びらん面への直接塗擦又は塗布を避けること。」ともされています。
一方、白色ワセリンの病院向けの添付文書に禁忌の記載はなく、副作用としてかぶれにあたる接触皮膚炎があげられています。市販の白色ワセリンでも、薬などでアレルギー症状を起こしたことがある人や、湿ってただれのひどい人は、使う前に医師や薬剤師に相談することになっています。
どちらも、赤みやかゆみなどが出たらすぐに使うのをやめて相談しましょう。
まとめ
- ヘパリン類似物質は水を抱えて角層をうるおし、ワセリンは表面をおおって水分の蒸発を防ぎます
- 角層の水分をふやす力はヘパリン類似物質が強く、ワセリンは少しずつ水分をためる働きです
- ヘパリン類似物質は医薬品と医薬部外品の有効成分で、ワセリンは化粧品にも医薬品にも使われます
- 両方使うなら、先にヘパリン類似物質、上からワセリンが目安で、処方されたときは指示に従います
- 出血しやすい血液の病気の人はヘパリン類似物質を使えず、ワセリンもかぶれることがあります
ヘパリン類似物質とワセリンは、うるおす役目とふたをする役目をもつ、しくみの違う保湿の成分です。使い心地や季節に合わせて選び、肌に赤みやかゆみが出たら使うのをやめて相談してください。
よくある質問
ヘパリン類似物質とワセリンの違いは何ですか?
違いは保湿のしくみです。ヘパリン類似物質は水を抱えて角層の水分を直接ふやし、ワセリンは肌の表面をおおって水分の蒸発を防ぎ、間接的に角層の水分をふやします。区分も違い、ヘパリン類似物質は医薬品と医薬部外品にだけ使われます。
ヘパリン類似物質とワセリンはどちらが保湿力が高いですか?
角層の水分をふやす力はヘパリン類似物質が強いとされます。一方、水分を逃がさない力はワセリンの得意分野で、役目が違います。どちらか一方に決めるより、使い続けやすいものを選ぶことが大切です。
ヘパリン類似物質とワセリンを両方塗るときの順番は?
先にヘパリン類似物質、上からワセリンが目安です。ふたをする油は湿った肌に塗ると効果が大きいとされるためです。病院で処方されているときは医師や薬剤師の指示に従いましょう。
出血しやすい人はワセリンも使えませんか?
使えない人として決められているのはヘパリン類似物質です。血液を固まりにくくする作用があるため、出血しやすい血液の病気の人は使えません。白色ワセリンの添付文書に禁忌はありませんが、かぶれることもあるので、迷うときは医師に相談しましょう。
季節によって使い分けたほうがいいですか?
使い心地で選ぶ目安として役立ちます。療育の医療センターの資料では、暑い夏はローション、春と秋はクリーム、乾燥する冬はワセリンが好まれるとされています。べたつきが苦手なら、ヘパリン類似物質のローションや泡のタイプも選べます。
この記事で参照した情報
- 日本皮膚科学会「皮脂欠乏症診療の手引き2021」(日皮会誌131(10):2255-2270)
- 第117回日本皮膚科学会総会 教育講演「外用剤を知り皮膚外用療法の達人を目指す 保湿剤・保護剤」(東北大学大学院皮膚科、ラジオNIKKEI 2019年1月10日放送)
- 岡山大学病院薬剤部「薬の窓口」No.275(2017年1月25日)
- 東京都立北療育医療センター薬剤検査科「保湿剤(軟膏・クリーム、ローション)の使い方」(2017年2月版)
- ヘパリン類似物質0.3% 医療用医薬品 添付文書(2025年7月改訂 第4版、KEGG MEDICUS)
- ヘパリン類似物質クリーム 第2類医薬品 添付文書(KEGG MEDICUS)
- 白色ワセリン 医療用医薬品 添付文書(2023年11月改訂 第1版、PMDA)
- 日本薬局方白色ワセリン 第3類医薬品 添付文書(KEGG MEDICUS)
- 厚生労働省 医薬部外品添加物リスト
- Purnamawati S, et al. The Role of Moisturizers in Addressing Various Kinds of Dermatitis: A Review. Clin Med Res 2017;15(3-4):75-87