この記事でわかること
- 成分名の「加水分解」が意味すること
- 元の成分との大きさの違いと、化粧品が届く範囲
- 加水分解コムギ末の事例とアレルギーとの関係
成分表で「加水分解コラーゲン」「加水分解ヒアルロン酸」のような名前を見ると、元の成分と何が違うのか、小さいほうが肌にいいのか、気になりますよね。
結論から言うと、「加水分解〇〇」は、〇〇を水の力で小さく切ったもの、という意味です。ただ、どこまで小さくしたかは名前だけではわからず、小さくしても化粧品が届くのは肌のいちばん外側の角層までです。まずは、加水分解とは何かから見ていきましょう。
加水分解は、水が加わって大きな分子のつなぎ目が切れる反応
加水分解は、水が作用して起こる分解反応です。化粧品の原料には、水の中で切れやすいつなぎ目をもつ物質が多く、そこに水が加わると、大きな分子が小さな分子に分かれるからです。この反応は、酸やアルカリがあると進みやすくなります。
「加水分解〇〇」は、元の成分の長い鎖を、水の力で短く切ったものです。
私たちの体の消化も加水分解のひとつで、でんぷんやたんぱく質は、酵素の働きでブドウ糖やアミノ酸に分解されています。化粧品の原料をつくるときも、この反応を使って大きな成分を小さく切ります。たんぱく質なら、塩酸などの酸、パパインなどの酵素、蒸気などの方法があり、加水分解コラーゲンは、牛や豚の骨や皮を、酸、アルカリ、酵素のどれか、または組み合わせで分解してつくります。温度や分解に使う薬の濃度を変えると、どこまで小さく切るかを調整できます。
一方で、製品の中で成分が分解されてしまう劣化も、同じ加水分解と呼ばれます。そのため、製品のpHが変わらないように工夫して、原料が分解されるのを防ぐこともあります。加水分解は、原料をつくる方法と、避けたい劣化の両方を指す言葉です。
成分名の「加水分解〇〇」からは、切り方も大きさもわからない
成分名からわかるのは、元の成分が何かと、加水分解したことまでです。名前のつけ方の決まりが、切り方でも、どこまで分解したかでも、名前を分けないからです。
成分の国際的な名前のつけ方の決まりでは、加水分解コラーゲンも加水分解ケラチンも、酸、酵素、その他の方法で加水分解したもの、という同じ型で説明されます。かつては完全に分解したものをケラチンアミノ酸、シルクアミノ酸のように呼んでいましたが、今はその区別をしていません。日本の成分表の名前も、この国際的な名前を訳してつくられています。
似た言葉との区別もあります。微生物で発酵させたものや、細胞を壊したものは、加水分解とは別の言葉を名前に入れる決まりで、日本の表示名称でも、微生物がつくったものは培養物や発酵物と呼ばれます。また、よく目にする「低分子」は、表示名称をつくる決まりには出てこない言葉です。高分子の鎖を化学的に、または酵素で切った小さなヒアルロン酸は、一般に加水分解ヒアルロン酸と呼ばれるとされています。
だから、同じ名前でも、中身の大きさは製品ごとに違います。
元の成分とのいちばんの違いは大きさで、名前ごとに幅がある
元の成分と比べたいちばんの違いは、大きさです。加水分解は、長い鎖を短く切る加工だからです。
たんぱく質の加水分解物は、ふつう分子量500〜30,000、アミノ酸にして4〜220個分と、長さのそろわない鎖が混ざったものになります。米国の化粧品成分の専門家委員会がまとめた値では、加水分解コラーゲンは分子量400〜25,000、加水分解ヒアルロン酸Naは1,000未満〜10,000ほど、加水分解ケラチンは150ほどのものもありつつ多くは1,000〜3,000です。加水分解シルクは平均300〜約1,000、大豆たんぱくの加水分解物は平均300〜2,000ほどでした。元のコラーゲンは約30万、化粧品原料のヒアルロン酸Naは約50万〜220万とされるので、ずっと小さくなっています。加水分解コラーゲンには、分子量400〜2,000の範囲で6種類をつくり分けている原料の例もあります。
大きさが変わると、性質も変わります。コラーゲンは加熱すると3重のらせんがほどけてゼラチンになり、それをさらに分解したものがコラーゲンペプチドです。コラーゲンは温めると、ゼラチンは冷やすと固まるのに対し、コラーゲンペプチドは水に溶け、冷えても固まらないとされています。大豆たんぱくの加水分解物も水に溶ける成分です。小麦のたんぱく質は、酸と熱で処理すると水に溶けやすくなり、保湿などの働きを求めて化粧品の原料に使われてきました。
「加水分解〇〇」は、小さく切って、水に溶けやすくした成分と読んでおくとわかりやすいです。
小さくしても、化粧品が届くのは角層まで
小さく切ったなら、そのぶん深くまで入りそうだと思いますよね。でも、化粧品の浸透は、肌のいちばん外側にある角層までの話です。広告で浸透と書くときは角質層までと示すよう、業界の自主基準で求められているからです。
皮膚から吸収されるかの目安としてよく出てくる500ダルトンは、薬づくりの目安として生まれた数字ですが、加水分解物の多くは500より大きい分布をもっています。皮膚からの吸収は、分子量1,000以上で少なくなるともされています。
保湿の力も、小さいほど高いわけではありません。コラーゲンでは、分解する前のコラーゲンのほうが水分を吸着し、保つ力が高いとされています。大きなコラーゲンは肌の上にとどまって水分を保ち、平均分子量1万以下の加水分解ヒアルロン酸は角質層に浸透するとされていて、大きさによって働く場所が違います。
小さいか大きいかは良い悪いではなく、肌の表面で働くか、角層の中で働くかの違いと考えましょう。
加水分解コムギ末では、小麦アレルギーが起きた事例がある
加水分解した成分で、大きな健康被害が出た事例があります。加水分解によって、元の小麦にはない性質が生まれていたからです。
2010年ごろ、加水分解コムギ末を含む洗顔用の石けんを使った人に、顔のかゆみなどのほか、小麦を含む食べ物を食べたあとに運動すると全身にアレルギーが出る例が報告されました。厚生労働省は2010年10月、使ううちに気づかないまま、体がこの成分にアレルギーを起こす準備をしてしまった可能性があるとして、使用上の注意を求める通知を出しています。全国の調査では、2,111例が確実な例とされました。
日本アレルギー学会の特別委員会は、加水分解コムギは天然の小麦を人工的に加工したもので、加水分解したときにしか現れない、天然の小麦にはないアレルギーを起こす性質をもっていたと説明しています。この石けんでアレルギーになった人は、天然の小麦の成分とこの人工的な部分の両方に反応するようになっていました。原料の濃度が他の製品より高かったこと、分子の大きなたんぱく質を多く含んでいたことも、関係していたと考えられています。
加水分解コムギ末の事例のあと、国は表示と原料の決まりを見直しました。
アレルギーの
報告
「小麦由来」と
書く
原料の規格を
改正
国は2011年9月に、小麦由来の成分は名前のあとにかっこで「小麦由来」などと書くよう求め、2017年3月には医薬部外品の原料の規格を改めて、加水分解コムギの品質を定めました。事故を起こしたような加水分解コムギは、医薬部外品では使えなくなっています。
アレルギーは、分子の大きさだけでは決まらない
小さいほうが安全なのか、大きいほうが危ないのか、迷う人は多いと思います。加水分解した成分とアレルギーの関係は、大きさだけでは決まりません。アレルギーの種類によって、問題になる大きさが違うからです。
500ダルトンという目安の根拠のひとつは、よくある接触アレルギーの原因物質がほぼすべて500未満だったことで、小さく入りやすいものは、かぶれの面からも見ておく必要があります。一方、食べ物のアレルギーのようにすぐに出るタイプでは、抗体が結びつく場所が2か所いるため、アミノ酸30個分、分子量でおよそ3,570以上の長さが必要とされ、小麦の事例の原料も大きなたんぱく質を多く含んでいました。
米国の専門家委員会は、この考え方から加水分解コムギの成分を、重量平均分子量3,500以下に抑えて配合すれば安全と評価しました。加水分解コラーゲン、加水分解ヒアルロン酸、加水分解ケラチンなども、今の使い方と濃度なら安全という評価です。また、肌荒れしているときは成分がふだんより吸収されやすくなることも知られています。
気になる人は、成分表で「加水分解〇〇」の〇〇、つまり元の成分が何かを確かめましょう。小麦由来のものは、名前に小麦やコムギが入っているか、名前のあとに小麦由来と添えられています。羊毛のように、原料の名前がかっこで添えられていることもあります。使ったあとにかゆみや赤みが出たら使うのをやめ、皮膚科に相談しましょう。
まとめ
- 加水分解は水が加わって分子のつなぎ目が切れる反応で、「加水分解〇〇」は〇〇を小さく切ったものです
- 名前だけでは、酸か酵素かといった切り方も、どこまで小さくしたかもわかりません
- 分子量は名前ごとに幅があり、加水分解物の多くは500ダルトンより大きく、化粧品が届くのは角層までです
- 加水分解コムギ末では、天然の小麦にないアレルギーを起こす性質が生じ、国が表示と原料の規格を見直しました
- アレルギーは大きさだけでは決まらず、気になる人は成分表で元の成分を確かめるのが確実です
「加水分解」は小さく切ったという加工の印で、大きさや肌への届き方を約束する言葉ではありません。元の成分が何かに目を向けると、成分表を落ち着いて読めるようになります。
よくある質問
加水分解コラーゲンとコラーゲンは何が違いますか?
いちばんの違いは大きさです。元のコラーゲンは分子量約30万とされ、加水分解コラーゲンは400〜25,000ほどと報告されています。
成分名を見れば、どこまで小さくしたかわかりますか?
わかりません。成分名は分解の程度で名前を分けないため、同じ名前でも製品ごとに大きさが違います。酸と酵素のどちらで切ったかも名前には出ません。
加水分解した成分は、小さいぶん深くまで浸透しますか?
化粧品の浸透は、肌のいちばん外側の角層までの話です。加水分解物の多くは、皮膚から吸収されるかの目安とされる500ダルトンより大きい分布をもっています。
加水分解コムギでアレルギーが起きたのは本当ですか?
本当です。2010年ごろ、加水分解コムギ末を含む石けんで小麦アレルギーが起きました。その後、国は小麦由来の表示を求め、2017年に医薬部外品の原料の規格を改めました。
小さい分子のほうがアレルギーは起きにくいですか?
大きさだけでは決まりません。よくある接触アレルギーの原因物質はほぼ500未満の小さなものですが、すぐに出るアレルギーにはアミノ酸30個分ほどの長さが必要とされています。
この記事で参照した情報
- 日本化粧品技術者会(SCCJ) 化粧品用語集「加水分解」
- 日本化粧品技術者会(SCCJ) 化粧品用語集「加水分解コラーゲン」
- Burnett CL, et al. Safety Assessment of Plant-Derived Proteins and Peptides as Used in Cosmetics. Int J Toxicol 2022;41(2_suppl):5S-20S
- Personal Care Products Council「INCI Nomenclature – Conventions and Reference Information」(2023年9月1日版)
- 日本化粧品工業連合会「日本化粧品工業連合会表示名称作成ガイドライン」(平成14年2月27日)
- Zanchetta C, Scandolera A, Reynaud R. Hyaluronic Acid in Topical Applications: The Various Forms and Biological Effects of a Hero Molecule in the Cosmetics Industry. Biomolecules 2025;15:1656(著者は原料会社の所属)
- Cosmetic Ingredient Review「Safety Assessment of Skin and Connective Tissue-Derived Proteins and Peptides as Used in Cosmetics」(Final Report 2017年10月5日)
- Cosmetic Ingredient Review「Safety Assessment of Hyaluronates as Used in Cosmetics」(Final Report 2023年7月7日)
- Cosmetic Ingredient Review「Safety Assessment of Keratin and Keratin-Derived Ingredients as Used in Cosmetics」(Final Report 2016年7月6日)
- Johnson W Jr, et al. Safety Assessment of Silk Protein Ingredients as Used in Cosmetics. Int J Toxicol 2020;39(3_suppl):127S-144S
- Cosmetic Ingredient Review「Safety Assessment of Soy Proteins and Peptides as Used in Cosmetics」(Draft Final Report 2015年8月28日)
- 高研「やはり違った!アテロコラーゲンやコラーゲン、ゼラチン、コラーゲンペプチド」(2021年9月28日)
- 多木化学「コラーゲン材料」
- 多木化学「コラーゲン材料 Q&A」
- 日本ゼラチン・コラーゲン工業組合「コラーゲンペプチド」
- キッコーマンバイオケミファ「ヒアルロン酸 FCH」製品情報
- キユーピー ファインケミカル「ヒアロオリゴ」製品情報
- 日本化粧品工業会 適正広告研究部会「化粧品等の適正広告ガイドライン 2020年版」解説資料(京都府薬務課サイト掲載)
- Bos JD, Meinardi MM. The 500 Dalton rule for the skin penetration of chemical compounds and drugs. Exp Dermatol 2000;9(3):165-169
- 日本化粧品技術者会(SCCJ) 化粧品用語集「経皮吸収」
- 厚生労働省 報道発表「小麦加水分解物を含有する医薬部外品・化粧品による全身性アレルギーの発症について」(平成22年10月15日)
- 厚生労働省「加水分解コムギ末を含有する医薬部外品・化粧品の使用上の注意事項等について」(平成22年10月15日 薬食安発第1015002号・薬食審査発第1015013号)
- 厚生労働省「小麦由来成分を配合する医薬部外品及び化粧品への成分表示について」(平成23年9月9日 薬食審査発0909第1号・薬食安発0909第1号)
- 厚生労働省「「医薬部外品原料規格2006」の一部改正について」(平成29年3月30日 薬生発0330第2号)
- 製品評価技術基盤機構(NITE)「加水分解タンパク質」
- 日本アレルギー学会「化粧品中のタンパク加水分解物の安全性に関する特別委員会」
- 日本アレルギー学会 化粧品中のタンパク加水分解物の安全性に関する特別委員会「FAQ(一般の方向け)」
- 藤田医科大学 プレスリリース(2017年6月19日)
- 藤田医科大学 プレスリリース 研究の要旨(2017年6月19日)
- Yagami A, et al. Outbreak of immediate-type hydrolyzed wheat protein allergy due to a facial soap in Japan. J Allergy Clin Immunol 2017;140(3):879-881.e7
- Yokooji T, et al. Characterization of Causative Allergens for Wheat-Dependent Exercise-Induced Anaphylaxis Sensitized with Hydrolyzed Wheat Proteins in Facial Soap. Allergol Int 2013;62(4):435-445
- Cosmetic Ingredient Review「Safety Assessment of Hydrolyzed Wheat Protein and Hydrolyzed Wheat Gluten as Used in Cosmetics」(Final Report 2014年6月24日)
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