この記事でわかること
- 低分子と高分子の違いと、境目の考え方
- 低分子と高分子が、角層でそれぞれ何をしているのか
- 代表的な成分の分子量と、「浸透」の読み方
「低分子ヒアルロン酸」「低分子だからなじみやすい」と書かれていると、小さいほうがよいのか、高分子の成分には意味がないのか、迷いますよね。
結論から言うと、低分子と高分子は良し悪しではなく大きさの違いで、得意な役割が違います。低分子の成分は角層の中に入って水を抱え、高分子の成分は肌の表面で膜をつくって水を保つので、化粧品では両方を組み合わせて使います。まずは、低分子と高分子がそれぞれ何を指すのかから見ていきましょう。
低分子と高分子は大きさの違いで、境目に決まった数字はない
低分子は小さな分子、高分子は小さな単位が何度もくり返しつながってできた大きな分子のことで、どこからが低分子という決まった数字はありません。化学の国際的な取り決めでも、高分子はこうした作りで決められていて、分子量がいくつ以上という数字は入っていないからです。
分子量は分子の重さを表す数で、水は約18、グリセリンは約92ですが、化粧品に使われるヒアルロン酸Naの原料には約50万〜220万のものがあります。
目盛りは1つ進むごとに10倍です。研究では、分子量5万のヒアルロン酸も「低分子」と呼ばれています。
医薬品の世界でも、低分子の薬の多くは分子量500以下とする資料がある一方で、およそ900前後かそれ以下を目安にする資料もあります。皮膚を通りやすいかどうかの目安も、500とする考え方と、1,000以上で吸収量が少なくなるとする考え方があります。
化粧品で言う「低分子」も、もとの成分やほかの成分と比べて小さい、という比べた言い方で、表示名称をつくるルールにも出てこない言葉です。商品で「低分子ヒアルロン酸」とうたわれる成分は、成分表示では加水分解ヒアルロン酸などと書かれていることが多くあります。
「低分子」と見たら、ほかと比べて小さいという意味だと読みましょう。
低分子の成分は、角層の中に入って水を抱える
低分子の保湿成分のよいところは、肌のいちばん外側の角層の中に入って、水を抱えることです。肌がもともと角層の中で水を抱えるのに使っている成分も、低分子の集まりだからです。
肌の乾燥は、角層から水分が逃げて、うるおいが足りなくなることで起きます。角層の細胞の中で水を抱えているのが天然保湿因子で、その中身はアミノ酸、PCA、尿素、乳酸などの低分子です。
グリセリンのような多価アルコールやアミノ酸の仲間の保湿成分は、天然保湿因子と同じように小さく、角層の中に入り込んで、角層の成分となじみながら水を抱えます。皮膚からの吸収は分子量が1,000以上の大きな分子になると少なくなるとされ、低分子の成分は角層に入りやすい条件を一つ満たしています。
グリセリンなどの低分子の保湿成分は、角層の中に入って水を抱えます。
空気中の水を引き寄せる力、つまり吸湿性が高いのも低分子の持ち味です。グリセリンやPCA-Naは、高分子のヒアルロン酸Naより吸湿性が高いとされています。
ただし、「低分子ならさらっとして軽い」とも限りません。低分子の保湿剤は、たくさん入れると使用感が悪くなりやすく、同じ低分子でもBGはグリセリンに比べて粘度が低くべたつきが少ないなど、感触は成分ごとに違います。水へのなじみやすさも大きさとは別の性質で、アスコルビン酸は水によく溶けますが、レチノールは低分子でも水に溶けません。
低分子の保湿成分は、角層の中で水を抱えて乾燥を防ぐ役と覚えておきましょう。
高分子の成分は、肌の表面で膜をつくって水を保つ
大きくて角層に入りにくいなら、高分子は意味がないのでは、と思いますよね。でも、高分子の成分は、肌の表面で膜をつくって水を保つのが得意です。ヒアルロン酸のような生き物由来の高分子は、塗って乾くと膜のようになり、外の湿度に左右されずに水分を保つからです。
ヒアルロン酸Naは、吸湿性ではグリセリンなどに及ばないものの、水を保つ力にすぐれ、しなやかで丈夫な膜をつくります。角層の内側の成分とは結びつきにくい一方で、水を抱えやすい性質によって、塗ると角層の水分量を長い時間にわたって高めます。コラーゲンも分子量が約30万と大きく、肌の上にとどまって水分を保つとされています。
水に溶ける高分子は、分子のまわりにたくさんの水を含んだゲルをつくり、液の粘り気を大きく上げます。化粧水のとろみやジェルの感触をつくるのも高分子の仕事で、成分表示でカルボマーと書かれる成分がその代表です。ジメチコンのように、同じ名前でも鎖が長いものほど粘り気が強くなる成分もあります。
角層に入りにくいことは、表面で働くための持ち味でもあります。ただし、入りにくいからといって、刺激がまったくないという意味ではありません。
化粧品では、低分子と高分子を組み合わせて使う
化粧品の保湿では、吸湿性の高い低分子の保湿剤と、乾くと膜になって水を保つ高分子を、組み合わせて使うのが一般的です。低分子の保湿剤は空気中の水を引き寄せる力が強い一方で、外気がとても乾燥していると、抱えていた水分を蒸発させてしまうこともあるからです。
低分子が角層の中で水を抱え、高分子が表面で水を保つ、という役割分担です。
角層の中で
水を抱える
表面で
膜をつくる
中と表面の
両方から
そのため、ヒアルロン酸Naのような水を保つ力の高い高分子と一緒に使うのが有効とされています。化粧品の保湿剤には、多価アルコールのような低分子から、ヒアルロン酸のような生き物由来の高分子まで、さまざまな大きさのものがあります。
たとえば、成分表示にグリセリンやBGとヒアルロン酸Naが並んでいたら、角層の中で水を抱える役と、表面で水を保つ役がそろっていると見ることができます。そこに油で表面をおおう成分が加わると、保湿の役割分担がそろいます。
低分子と高分子は、どちらかを選ぶものではなく、組み合わせるものです。
よく見る低分子の成分は、分子量が数十から数百
化粧品でよく見る低分子の成分は、分子量がおよそ60から300ほどです。尿素は約60、グリセリンは約92、ナイアシンアミドは約122、トラネキサム酸は約157、アスコルビン酸は約176、レチノールは約286で、どれも数百までの小さな分子です。
角層の細胞のすき間を埋める脂質の主な成分であるセラミドのうち、セラミドNPは試薬の値で約584と、低分子の中では大きめです。6つのアミノ酸がつながったペプチドのアセチルヘキサペプチド-8は約889で、低分子と高分子のあいだの中くらいの位置にあります。
加水分解コラーゲンや加水分解ヒアルロン酸は、大きな成分を分解して小さくしたもので、分子量は原料や製品ごとに幅があります。加水分解コラーゲンでは400〜2万5,000ほど、加水分解ヒアルロン酸では1万以下の製品が例に挙がり、どちらももとの成分よりは小さいものの、尿素やグリセリンと比べると桁違いに大きな成分です。
高分子の側には、ヒアルロン酸Na、コラーゲン、水溶性プロテオグリカン、カルボマーなどが並びます。成分名を見たら、数十〜数百なら低分子、数万以上なら高分子の側とおおまかに分けておくと読みやすくなります。
ヒアルロン酸は、小さくても大きくても角層の水分を上げる
うるおいのためなら、小さいヒアルロン酸のほうがよさそうだと思う人は多いと思います。でも、うるおいの面では、ヒアルロン酸は小さくても大きくても角層の水分を上げます。大きさの違うヒアルロン酸を比べても、水分量はどの大きさでも上がったからです。
分子量5万、13万、30万、80万、200万のヒアルロン酸を0.1%含むクリームを目元に塗ると、肌の水分量と弾力の値は、どの分子量でも上がったという結果があります。
ヒアルロン酸は、大きさが違ってもどれもうるおいを保つ成分です。小さいものだけを探す必要はありません。
低分子でも、化粧品の浸透は角層まで
「低分子だから、より深いところまで届く」と思いますよね。でも、低分子でも高分子でも、化粧品の浸透は角層までの話です。化粧品が働くのは角層までで、広告でも浸透は角質層までと場所を限って書くことが、業界の自主基準で求められているからです。
角層より深いところまで届くように読める書き方は、ふさわしくない例とされています。また、肌への入り方は大きさだけで決まらず、油へのなじみやすさや、何に溶かして塗るかという製品の基剤、肌の状態によっても変わります。分子が小さいほど深く届くわけではありません。
低分子の成分の持ち味は、角層で水を抱え、高分子とともにうるおいを保つところにあります。
まとめ
- 低分子と高分子は大きさの違いで、境目に決まった数字はありません。化粧品の「低分子」は比べた言い方です
- 低分子の保湿成分は、天然保湿因子と同じように角層の中に入って水を抱えます
- 高分子の成分は、肌の表面で膜をつくって水を保ち、とろみや感触もつくります
- 化粧品では両方を組み合わせて使うのが基本で、ヒアルロン酸はどの大きさでも水分量が上がりました
- よく見る低分子の成分は分子量60〜300ほど。浸透はどちらも角層までの話です
「低分子」は良し悪しの印ではなく大きさの目安です。成分表示で見かけたら、角層の中で働く役か、表面で働く役かを考えてみてください。
よくある質問
低分子と高分子の違いは何ですか?
高分子は小さな単位がくり返しつながった大きな分子で、低分子は小さな分子です。どこからが低分子という決まった数字はなく、医薬品では多くは500以下、900前後以下など、分野によって目安が違います。
低分子成分のメリットは何ですか?
角層の中に入って水を抱えやすく、空気中の水を引き寄せる力が強いものが多いことです。肌がもともと持つ天然保湿因子も低分子の集まりです。
低分子なら角層より深くまで届きますか?
化粧品が働くのは、低分子でも角層までです。広告でも、浸透は角質層までと場所を限って書くことが業界の自主基準で求められています。
代表的な低分子成分にはどんなものがありますか?
尿素約60、グリセリン約92、ナイアシンアミド約122、トラネキサム酸約157、アスコルビン酸約176、レチノール約286などです。セラミドNPは試薬の値で約584です。
高分子の成分には意味がないのですか?
意味があります。高分子は肌の表面で膜をつくって外の湿度に左右されずに水を保ち、とろみや感触もつくるため、化粧品では低分子と組み合わせて使うのが基本です。
この記事で参照した情報
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- 高分子学会「高分子科学の基本的術語の用語集」(IUPAC 1996年勧告の日本語訳、翻訳: 畑田耕一)
- 高分子学会 高分子未来塾「「高分子」って何だろう?②」
- くすりの適正使用協議会「これだけは知っておきたい バイオ医薬品」(2024年2月改訂)
- NIH SEED「Regulatory Knowledge Guide for Small Molecules」(2023年11月更新)
- 日本化粧品工業連合会「日本化粧品工業連合会表示名称作成ガイドライン」(平成14年2月27日)
- キユーピー ファインケミカル「ヒアロオリゴ」製品情報
- キッコーマンバイオケミファ「ヒアルロン酸 FCH」製品情報
- キッコーマンバイオケミファ「マイクロヒアルロン酸 FCH」製品情報
- 日本化粧品技術者会(SCCJ) 化粧品用語集「生体高分子」
- 日本化粧品技術者会(SCCJ) 化粧品用語集「水溶性高分子」
- 日本化粧品技術者会(SCCJ) 化粧品用語集「皮膜形成高分子」
- 日本化粧品技術者会(SCCJ) 化粧品用語集「天然保湿因子」
- 日本化粧品技術者会(SCCJ) 化粧品用語集「保湿」
- 日本化粧品技術者会(SCCJ) 化粧品用語集「多価アルコール類」
- 日本化粧品技術者会(SCCJ) 化粧品用語集「1,3-ブチレングリコール」
- 日本化粧品技術者会(SCCJ) 化粧品用語集「経皮吸収」
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- 多木化学「コラーゲン材料 Q&A」
- KEGG COMPOUND C00001(水)
- KEGG COMPOUND C00086(尿素)
- KEGG COMPOUND C00037(グリシン)
- NIST Chemistry WebBook「1,3-Butanediol」
- KEGG DRUG D00028(グリセリン)
- KEGG DRUG D00036(ナイアシンアミド)
- KEGG COMPOUND C01879(ピロリドンカルボン酸)
- KEGG DRUG D01136(トラネキサム酸)
- KEGG DRUG D00018(アスコルビン酸)
- KEGG DRUG D00193(パンテノール)
- KEGG COMPOUND C00212(アデノシン)
- KEGG COMPOUND C06186(アルブチン)
- KEGG COMPOUND C00473(レチノール)
- Larodan「N-Stearoyl Phytosphingosine」製品ページ(試薬カタログ値)
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- 日本化粧品工業連合会「化粧品等の適正広告ガイドライン」(2020年版) E3「肌・毛髪への浸透」等の作用部位の表現
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