この記事でわかること
- 石けんの事例で何が起きたか
- 肌から食べ物のアレルギーになる経路
- 成分表で小麦由来を見分ける方法
石けんを使っていただけなのに、パンやうどんでアレルギーが出るようになった人がいたと聞くと、成分表に「コムギ」とあるだけで不安になりますよね。
結論から言うと、これは本当にあった話で、加水分解コムギを含む洗顔石けんを使ううちに、肌や目から小麦にアレルギーになり、小麦を食べて症状が出る人が2,000人以上報告されました。ただ、原因になった原料には特徴があり、今は小麦由来の成分が表示でわかるようになっています。どこに気をつければよいかを、順に見ていきましょう。
加水分解コムギは、小麦のたんぱく質を細かくした成分
加水分解コムギは、小麦のたんぱく質であるグルテンを、酸やアルカリ、熱、酵素などで細かくした成分です。水に溶けやすくなるので、化粧品の原料などに使われてきました。
この成分を含む石けんを使ったあとに、パンやパスタ、うどんなどの小麦を含む食べ物を食べて、じんましんや呼吸困難を起こす例が報告されるようになりました。加水分解コムギによって肌から小麦にアレルギーになった人は、あわせて2,000人以上にのぼります。
「加水分解」という言葉の意味や、ほかの加水分解された成分との違いは加水分解の記事にまとめています。ここでは、小麦アレルギーの側から、しくみと今の気をつけ方を見ていきます。
石けんの事例では、使ったときと食べたあとに症状が出た
症状は、石けんを使ったときと、小麦を食べたあとの2つの場面に分かれて出ました。同じ小麦のたんぱく質に、肌と口の両方からふれていたからです。
患者さんの9割以上が女性で、毎日の洗顔で使っていた人が中心でした。石けんを使ったときには、顔や目のまわりのかゆみ、まぶたや顔のはれ、赤みが出ました。小麦を食べたあとには、とくに食後に運動したときに、全身の赤みやじんましん、血圧の低下、腹痛などの全身のアレルギーが起きました。
石けんを使っているときには何も感じていなかった人もいて、気づかないうちにアレルギーの準備が進んでいたと考えられています。厚生労働省は通知で、使用上の注意を加えるよう求めました。目や鼻などの粘膜に使わないこと、異常があれば使うのをやめること、まぶたのはれや息苦しさ、じんましんなどが出たらすぐに医師に相談することが、その中身です。
症状がなくても準備が進むことがある、というのがこの事例のいちばん大事な点です。
覚える入り口が、口ではなく肌や目だった
この事例で珍しかったのは、体が小麦を覚える段階が、口からではなく、肌や目の粘膜から起きたことです。アレルギーは、体が原因の物質を覚える「感作」と、そのあとで同じ物質にふれたときに症状が出る段階の、2段階で起こるからです。
皮膚から原因の物質が入ってアレルギーになることを経皮感作といい、アトピー性皮膚炎のように肌のバリアが傷んでいると、食べ物のアレルギーが起きやすくなることが知られています。石けんで顔を洗うと、泡は肌だけでなく目のまわりにもつくので、洗顔のときに目の粘膜からも感作されたと考えられています。
覚える入り口は肌や目、症状が出る入り口は食べたとき、という2段階でした。
目にふれる
覚える
食べる
症状が出る
肌にふれる量が多いほど、アレルギーの反応が強くなったという動物での結果もあります。症状の出方にも特徴があり、小麦を食べたあとにまぶたがはれるのは、もともと知られていた小麦のアレルギーではあまり見られない症状です。一方で、食後の運動がきっかけになる点は、小麦依存性運動誘発アナフィラキシーという病気によく似ていました。なりやすさに関係する遺伝子の違いも見つかっています。
覚える入り口と症状が出る入り口は、違っていてもつながることがあるのです。
原因の原料には、大きなたんぱく質が多く残っていた
加水分解コムギなら、どれでも同じだと思いますよね。でも、事例の石けんに使われた原料には、大きなたんぱく質が多く残っていました。その大きさが、感作の大きな要因になったと考えられています。
事例の石けんの原料には、長くつながったままの大きなたんぱく質が多く残っていました(模式図)。
さらに、酸と熱で処理する途中でたんぱく質の一部の形が変わり、天然の小麦にはないアレルギーの起こしやすさが生まれていたことも、原因として挙げられています。この考え方から、米国の化粧品成分の専門家委員会は、加水分解コムギの仲間の成分を、平均分子量3,500ダルトン以下に抑えて配合すれば、化粧品に使って安全と結論しました。アミノ酸が30個を超えない長さなら、アレルギーの準備を起こさないという評価です。
ただし、成分表の「加水分解コムギ」という名前からは、大きさまではわかりません。小麦アレルギーがある人は、大きさより、小麦由来の成分が入っているかを先に確かめるのが確実です。
今の成分表では「コムギ」と「小麦由来」で見分けられる
今の化粧品や医薬部外品では、小麦由来の成分は、名前に「コムギ」が入っているか、括弧で「小麦由来」と添えられています。事例を受けて、厚生労働省が2011年9月に、小麦由来であることがわかる表示をするよう求めたからです。
成分の名前に「小麦」や「コムギ」が入っていて、名前から小麦由来だとはっきりわかるものはそのままでよく、そうでないものは、名前のあとに括弧で「小麦由来」などと書きます。あわせて、赤みやかゆみ、刺激、目に異物感が残るときは使うのをやめる、という注意の書き方の例も示されました。
同じ小麦由来でも、中身は成分ごとに違います。加水分解コムギはたんぱく質を細かくしたもので、事例の原因になったのはこの仲間です。一方、コムギ胚芽油は小麦の胚芽からとった油で、油の部分のグルテンは測れないほどわずかだったという結果があります。なお成分表には、決まった例外として書かなくてよい成分もあります。成分表の読み方も知っておくと、表示を過信せずにすみます。
油かたんぱく質かにかかわらず、名前に「コムギ」とある成分は、どれも小麦由来として扱っておくのが安心です。
小麦アレルギーの人は、使う前に成分表と主治医
小麦アレルギーと診断されている人や、以前に小麦由来の成分を含む製品で症状が出たことがある人は、使う前に成分表で「コムギ」「小麦由来」を探し、迷うときは主治医に成分表を見せて相談しましょう。表示のルールができたのは、使う人が自分で確かめられるようにするためでもあります。
洗顔料や化粧品は、目や鼻などの粘膜に入らないように使うことも、国の通知で示された注意です。石けんの事例では、使うのをやめると、小麦に反応する抗体は少しずつ減っていく傾向がありました。使うのをやめて治療を受けた人の79%以上が、小麦を含む食べ物を食べられるようになっています。
ただ、食べられるかどうかは自分で試して決めず、再び食べ始めるときは医師と相談しながら進めましょう。
症状が出たら使うのをやめ、全身の症状なら119番
化粧品を使ったあとに、まぶたのはれ、顔のはれや赤み、じんましん、息苦しさ、腹痛などが出たら、使うのをやめて、すぐに医師に相談しましょう。アレルギーの症状は、短い時間で全身に広がることがあるからです。
症状が肌だけか、全身に出ているかで、急ぎ方が変わります。
やめる
持って
医師へ
119番
とくに、息苦しさ、声のかすれ、ぐったりする、意識がもうろうとする、強い腹痛が続く、吐くのをくり返す、といった様子は命に関わるサインです。処方された自己注射薬があれば使い、すぐに119番に電話します。
受診するときは、使っていた製品と成分表を持っていくと、原因を探す手がかりになります。小麦を食べたあとや食後に運動したときに症状が出たことがあれば、それも伝えましょう。この事例のようなすぐに出るタイプのアレルギーは、皮膚に原因の物質をのせて少し刺す検査や、血液の抗体の検査などで調べます。肌に貼って数日かけて調べるかぶれの検査や相談先とは別のものなので、症状の出方をそのまま医師に話すことが大切です。
まとめ
- 加水分解コムギは小麦のたんぱく質を細かくした成分で、これを含む洗顔石けんで小麦アレルギーになった人が2,000人以上報告されました
- 肌や目の粘膜からアレルギーの準備ができ、小麦を食べたときに症状が出る、経皮感作という経路でした
- 事例の原料には大きなたんぱく質が多く残っていて、米国の専門家委員会は平均分子量3,500ダルトン以下なら安全としています
- 2011年から、小麦由来の成分は名前に「コムギ」が入るか、括弧で「小麦由来」と書かれます
- 小麦アレルギーの人は使う前に成分表を確かめ、使ったあとにまぶたのはれや息苦しさが出たら、すぐに医師へ。全身の症状なら119番です
加水分解コムギの事例は、化粧品の成分が肌から食べ物のアレルギーにつながることがある、と教えてくれた出来事です。成分表の「コムギ」「小麦由来」を手がかりに、気になるときは主治医と一緒に確かめてみてください。
よくある質問
加水分解コムギで小麦アレルギーになるのは本当?
本当にあった事例で、2,000人以上が報告されました。加水分解コムギを含む洗顔石けんを使ううちに、肌や目の粘膜から小麦にアレルギーになり、パンやうどんなど小麦を含む食べ物を食べたあとに、じんましんや呼吸困難などが出ました。原因の原料には、大きなたんぱく質が多く残っていました。
経皮感作とは何ですか?
皮膚から原因の物質が入り、アレルギーになることです。アレルギーは、体が物質を覚える段階と、症状が出る段階の2つで起こります。加水分解コムギの事例では、覚える段階が洗顔のときの肌や目の粘膜で、症状が出たのは小麦を食べたときでした。
成分表で小麦由来の成分はどう見分けますか?
名前の「コムギ」か、括弧の「小麦由来」を探します。2011年から、小麦由来の成分は、名前に小麦やコムギが入っていればそのまま、名前でわからないものは括弧で小麦由来などと添えて書くことになっています。加水分解コムギやコムギ胚芽油は、名前で見分けられる例です。
小麦アレルギーの人はコムギ入りの化粧品を使えますか?
使う前に成分表を見せて、主治医に相談しましょう。小麦由来の成分でも、たんぱく質を細かくしたものと胚芽の油とでは中身が違いますが、名前に「コムギ」とあるものは、どれも小麦由来として扱うのが安心です。使うときは目や鼻などの粘膜に入らないようにし、異常があればすぐにやめます。
化粧品でまぶたがはれたら、どうすればいい?
使うのをやめて、すぐに医師に相談しましょう。使った製品と成分表を持っていき、小麦を食べたあとに症状が出たことがあれば伝えます。息苦しさや声のかすれ、ぐったりする、意識がもうろうとするといった全身の症状があるときは、すぐに119番に電話してください。
この記事で参照した情報
- 厚生労働省 医薬食品局安全対策課長・審査管理課長通知「加水分解コムギ末を含有する医薬部外品・化粧品の使用上の注意事項等について」(平成22年10月15日 薬食安発1015第2号・薬食審査発1015第13号)
- 厚生労働省 医薬食品局審査管理課長・安全対策課長通知「小麦由来成分を配合する医薬部外品及び化粧品への成分表示について」(平成23年9月9日 薬食審査発0909第1号・薬食安発0909第1号)
- 厚生労働省 医薬食品局安全対策課長通知「医薬部外品又は化粧品にかかる研究報告について」(平成23年8月24日 薬食安発0824第1号)
- 薬事・食品衛生審議会 医薬品等安全対策部会 資料「化粧品に含まれた加水分解コムギによる経皮感作コムギアレルギー」(平成25年3月22日)
- 藤田保健衛生大学 プレスリリース 日本アレルギー学会「化粧品中のタンパク加水分解物の安全性に関する特別委員会」の研究成果
- 日本医療研究開発機構・筑波大学・藤田医科大学「小麦に対するアレルギーへのなりやすさ・なりにくさに関わる遺伝子を特定」(2019年7月25日)
- 筑波大学 プレスリリース(2019年7月18日)
- 千貫祐子「加水分解コムギアレルギーの予後調査と抗原性に関する検討」厚生労働科学研究費補助金 分担研究報告書
- 国立医薬品食品衛生研究所 資料(2013年11月16日)
- 京都府 掲載資料「加水分解コムギ末を含有する医薬部外品・化粧品の使用上の注意事項等について」
- 東京都保健医療局「加水分解コムギ末を含有する医薬部外品・化粧品の使用上の注意事項等について」
- Burnett C, et al. Safety Assessment of Hydrolyzed Wheat Protein and Hydrolyzed Wheat Gluten as Used in Cosmetics. Int J Toxicol 2018;37(1_suppl):55S-66S
- Oldani A, et al. Determination of gluten residue contents in wheat germ products. Tecnica Molitoria 2001;52(5):464-469
- 埼玉県アレルギー疾患相談室 よくあるQ&A集 Q24(令和8年8月)