この記事でわかること
- 表情ジワができるしくみと、本物のボトックスの働き方
- 「塗るボトックス」と呼ばれるペプチドの正体と、肌への届き方
- 濃度の%の読み方と、化粧品で言える範囲
「塗るボトックス」と書かれた化粧品を見ると、美容クリニックの注射と同じように表情ジワが目立たなくなるのか、気になりますよね。
結論から言うと、「塗るボトックス」は注射のボトックスとは別のもので、中身はペプチドという化粧品の成分です。本物のボトックスは医師が注射する薬で、化粧品には入れられません。シワについて化粧品で言えるのは「乾燥による小ジワを目立たなくする」までです。まずは、本物のボトックスが何をしているのかから見ていきましょう。
本物のボトックスは、医師が筋肉に注射する医薬品
ボトックスは、A型ボツリヌス毒素を成分とする医薬品の販売名で、医師が顔の筋肉に注射して表情ジワに働く薬です。表情ジワは筋肉の動きでできるので、筋肉に直接届けることで働くからです。
笑ったり眉を寄せたりすると、神経から顔の筋肉に「縮め」という合図が届き、筋肉が縮んで皮膚が折りたたまれます。これをくり返すうちに、眉間や目尻に寄るシワが表情ジワです。
注射のボトックスは、枠で囲んだ「神経から筋肉への合図」を抑えます。
眉を寄せる
合図が届く
縮む
寄る
注射のボトックスは、神経の末端から合図の物質が出るのを抑えて、神経から筋肉への伝わりを妨げます。美容の目的で使われるボトックスビスタは、医薬品として「65歳未満の成人における眉間又は目尻の表情皺」の効能が認められています。効果は通常3〜4か月でなくなるため、くり返し注射します。
この薬は生物由来製品で、毒薬と処方箋医薬品にも指定されています。講習を受け、顔の解剖の知識と注射の技術や経験をもつ医師が使うものと添付文書で決められています。一方、化粧品基準という国の決まりでは、化粧品に医薬品の成分を入れることは認められていません。
つまり、「塗るボトックス」と呼ばれる化粧品に、ボツリヌス毒素は入っていません。
「塗るボトックス」は、ペプチドにつけられた呼び名
「塗るボトックス」と呼ばれるのは、主に、アミノ酸がいくつかつながった小さな合成の成分、ペプチドです。注射と同じ「神経から筋肉への合図」に働くとされることから、この呼び名がついています。
代表的なのが、成分表示でアセチルヘキサペプチド-8と書かれるアルジルリン、ペンタペプチド-18と書かれるロイファシル、アセチルオクタペプチド-3、ジ酢酸ジペプチドジアミノブチロイルベンジルアミドと書かれるシンエイクです。カタカナの名前は原料の呼び名です。
働くとされる場所は、それぞれ少しずつ違います。アルジルリンはアミノ酸6個のペプチドで、神経の末端で合図の物質を押し出すしくみの組み立てを邪魔するとされ、アセチルオクタペプチド-3はそれを8個に伸ばしたものです。ロイファシルは、体の中でつくられる痛みを抑える物質、エンケファリンのしくみをまねて、神経の働きを抑えるとされます。シンエイクは、毒ヘビの毒に含まれるペプチドの一部をまねてつくった合成成分で、毒そのものは入っておらず、筋肉の側で合図の受け皿をふさぐとされています。
どれも、注射の薬とは別の、化粧品に使われる合成のペプチドです。
ペプチドが合図を抑える力は、注射よりずっと小さい
塗ればボトックスと同じ強さで働く、というわけではありません。合図を邪魔するという働きのもとになった試験管の実験でも、抑える度合いは毒素よりはるかに小さかったからです。
試験管の中では、アルジルリンが合図の物質の放出を抑えたという結果があります。ただし、少ない量で働く点ではボツリヌス毒素と同じくらいでも、抑える度合いは毒素よりはるかに小さいものでした。
ヒトでは、アルジルリンを含むクリームを目のまわりに塗ると、シワの深さが減ったという結果や、見た目でシワが目立ちにくくなった人が多かったという結果があります。ロイファシルでは、原料を2%入れたクリームで、シワに大きな変化が出たという結果があります。
ペプチドに期待できるのは、注射のような強い働きではなく、化粧品としての穏やかな手入れと考えておきましょう。
アルジルリンは、塗っても皮膚の表面にほぼ残る
塗ったアルジルリンは、ほとんどが皮膚の表面に残り、注射のように筋肉まで届くものではありません。アルジルリンは分子が大きく、水になじみやすいため、皮膚を通りにくいからです。
塗ったアルジルリンはほとんど表面に残り、真皮からは検出されませんでした。
ヒトの皮膚を使った実験では、アルジルリンを入れた乳液を塗ると、塗った量の99%超は表面を洗うと落ち、角層に残ったのは0.22%で、その下の真皮と皮膚の下の液からは検出されませんでした。アメリカの化粧品成分の評価機関も、皮膚への浸透はごくわずかだとまとめています。
点線で示した注射は、真皮よりさらに下にある筋肉に薬を直接届けます。塗るペプチドが注射のように筋肉まで届く、という前提では考えないほうがよいでしょう。
濃度の%は、原料の液か成分そのものかで意味が違う
研究や宣伝で見る「10%」のような数字は、何の濃度かを見ないと比べられません。原料の液の量なのか、ペプチドそのものの量なのかで、意味が大きく変わるからです。
たとえばアルジルリンは、ペプチドを0.05%だけ含む液の形で原料として売られています。この原料の液を10%入れると、ペプチドそのものは0.005%になります。ロイファシルのクリームの2%も、原料としての配合量です。
アメリカの化粧品成分の評価機関は、アルジルリンは0.005%までなら化粧品として安全と結論づけています。0.005%は、実際の化粧品に使われていた最大の濃度で、原料の液を10%入れた量とも同じです。
そのため、配合量の数字だけで効き目の強さを比べることはできません。
化粧品で言えるのは「乾燥による小ジワを目立たなくする」まで
シワについて化粧品で言えるのは、「乾燥による小ジワを目立たなくする」までです。化粧品はもともと薬理作用で効能を認められたものではないため、決められた効能のほかに、薬理作用による効能効果を表現できない決まりだからです。
神経から筋肉への合図を止めて表情ジワをゆるめる、という言い方は、この薬理作用による表現にあたる種類のものです。また「乾燥による小ジワを目立たなくする」も、成分が入っていれば言えるわけではなく、決められた方法で効果を確かめた製品だけに認められ、すべてのシワに効くと誤解させる表現もしてはならないとされています。
医薬部外品で「シワを改善する」効能が認められた有効成分には、レチノールやナイアシンアミドなどがあります。ここで挙げたペプチドはそれとは別の、化粧品の成分です。
表情ジワをゆるめるような言い方を見かけたら、化粧品で言える範囲を超えた表現だと考えてよいでしょう。
本物の注射は、承認された製品を医療機関で
注射のボトックスを受けるなら、国内で承認された製品を医師が扱う医療機関を選びましょう。講習を受けた医師が使う処方箋医薬品で、エステティシャンが扱えるものではないからです。
講習を受けるのが難しいという理由で医師が海外から輸入しようとする場合も、国は講習を受けられることを伝えて、国内で承認された製品を使うよう促しています。ボトックスの偽造品が見つかったときには、厚生労働省の依頼を受けて日本形成外科学会も注意を呼びかけました。
本物の注射は医療機関で、そして塗る化粧品には、注射と同じ働きを期待しないようにしましょう。
まとめ
- 表情ジワは、神経からの合図で顔の筋肉が縮むことをくり返してできるシワです
- 本物のボトックスは、医師が筋肉に注射してこの合図を抑える医薬品で、化粧品には入れられません
- 「塗るボトックス」は、アルジルリンなどのペプチドの呼び名で、合図を抑える力は注射よりずっと小さいものです
- アルジルリンは皮膚の表面にほぼ残り、アメリカの評価機関は0.005%までを安全としています
- 化粧品で言えるのは「乾燥による小ジワを目立たなくする」までで、薬理作用はうたえません
「塗るボトックス」という言葉は注射の薬と化粧品を近く見せますが、中身も働く場所も決まりも別のものです。成分表示の名前と、化粧品で言える範囲を見て選んでみてください。
よくある質問
塗るボトックスにボトックスの成分は入っていますか?
入っていません。化粧品に医薬品の成分を入れることは認められておらず、塗るボトックスと呼ばれるのはアルジルリンなどの合成のペプチドです。
塗るボトックスはボトックス注射と同じ効果がありますか?
同じ効果とはいえません。ペプチドが合図を抑える力は注射の毒素よりはるかに小さく、アルジルリンは塗っても皮膚の表面にほぼ残ったという結果があります。
成分表示ではどの名前を探せばいいですか?
アセチルヘキサペプチド-8、ペンタペプチド-18、アセチルオクタペプチド-3、ジ酢酸ジペプチドジアミノブチロイルベンジルアミドなどです。アセチルヘキサペプチド-8はアルジルリン、ペンタペプチド-18はロイファシル、最後のものはシンエイクの表示名です。
配合量が多いほど効果は高いですか?
配合量の数字だけでは比べられません。%が原料の液の量か成分そのものの量かで意味が違うからです。たとえばアルジルリンの原料の液を10%入れても、ペプチドそのものは0.005%です。
ボトックス注射はエステで受けられますか?
受けられません。ボトックスは講習を受けた医師が使う処方箋医薬品で、エステティシャンが扱えるものではありません。
この記事で参照した情報
- ボトックスビスタ注用50単位 添付文書(KEGG / JAPIC)
- アッヴィ(Allergan Aesthetics)「ボツリヌストキシン治療の気になる疑問」
- 厚生省「化粧品基準」(平成12年厚生省告示第331号)
- 厚生労働省「医薬品等適正広告基準の解説及び留意事項等について」(平成29年9月29日 薬生監麻発0929第5号)
- 厚生労働省「化粧品の効能の範囲の改正について」(平成23年 薬食発0721第1号)
- 厚生労働省「化粧品の効能の範囲の改正に係る留意事項について」(平成23年 薬食審査発0721第1号・薬食監麻発0721第1号)
- 厚生労働省 事務連絡「ボトックスビスタ及びジュビダームビスタシリーズの医師個人輸入に係る輸入確認について」(令和6年8月13日)
- 日本形成外科学会「ボトックスの偽造品の発見に関する注意喚起について」(2024年7月5日)
- Cosmetic Ingredient Review. Safety Assessment of Acetyl Hexapeptide-8 Amide as Used in Cosmetics (Final Report, 2021)
- Blanes-Mira C, et al. A synthetic hexapeptide (Argireline) with antiwrinkle activity. Int J Cosmet Sci 2002;24(5):303-310
- Wang Y, et al. The Anti-Wrinkle Efficacy of Argireline, a Synthetic Hexapeptide, in Chinese Subjects. Am J Clin Dermatol 2013;14:147-153
- Dragomirescu AO, et al. The Efficiency and Safety of Leuphasyl—A Botox-Like Peptide. Cosmetics 2014;1(2):75-81
- Kraeling MEK, et al. In vitro skin penetration of acetyl hexapeptide-8 from a cosmetic formulation. Cutan Ocul Toxicol 2015;34(1)
- Schagen SK. Topical Peptide Treatments with Effective Anti-Aging Results. Cosmetics 2017;4(2):16
- Errante F, et al. Cosmeceutical Peptides in the Framework of Sustainable Wellness Economy. Front Chem 2020;8:572923
- Lubrizol Life Science「Argireline® Peptide Solution NP」製品ページ(Knowde)
- dsm-firmenich「SYN-AKE®」製品ページ
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