この記事でわかること
- エクトインが水分を保つしくみと、化粧品として言える範囲
- 欧州の医療機器と化粧品の違い
- 高価とされる理由と、使うときの注意
「エクトイン配合」の化粧品を見かけると、ほかの保湿成分と何が違うのか、値段に見合うのか、迷いますよね。
結論から言うと、エクトインは水と強く結びつく性質をもつ保湿成分で、化粧品ではうるおいを与え、乾燥や肌荒れを防ぐために入っています。塩のとても濃い場所にすむ菌が、自分の体の水分を守るためにつくる成分です。まずは、肌の乾燥がどこで起きているのかから見ていきましょう。
肌の乾燥は、角層が水分を保てなくなって起きる
肌の乾燥は、いちばん外側の角層が水分を保てなくなることで起きます。
角層は、表面をおおう皮脂膜、細胞の中で水を抱える天然保湿因子、細胞のすき間を埋める細胞間脂質の3つでうるおいを守っています。細胞間脂質の約50%はセラミドです。このバランスがくずれると水分が逃げやすくなり、肌があれやすくなります。
そこで化粧品では、水を抱える保湿成分で角層にうるおいを与えます。エクトインも、その保湿成分の1つです。
エクトインは、水と強く結びついてうるおいを保つ成分
エクトインのいちばんの特徴は、水の分子と強く結びつくことです。この性質で、たんぱく質や細胞の膜のまわりにある水の層を保ち、たんぱく質の形がくずれるのを防ぐとされています。
菌が体の水分を守るための性質が、化粧品では保湿に生かされています。
濃い場所
つくる
結びつく
保つ
塩の濃い場所にすむ菌がその環境に耐えられるのも、エクトインが体の中の水分を保っているからです。エクトインは1つの分子の中にプラスとマイナスの両方の電気を帯びた部分を持っていて、これが水と強くなじむ主な理由と考えられています。水の分子の動きを計算すると、エクトインのまわりの水のかたまりは、水とグリセリンを混ぜたものより長くくずれなかったという結果もあります。
化粧品として言えるのは、うるおいを与える、乾燥を防ぐ、肌荒れを防ぐ、皮膚を保護するといった、国が決めた化粧品の効能の範囲です。これはグリセリンやヒアルロン酸などほかの保湿成分と同じ枠です。「乾燥による小ジワを目立たなくする」は、決まった試験で効果を確かめた製品だけが言える言葉なので、エクトインが入っているだけでは名乗れません。
エクトインは、水を抱える力が強い保湿成分の仲間、と考えるとわかりやすいです。
エクトイン入りのクリームは、使い心地と効果で好まれた
健康な肌に使った試験では、エクトイン入りのクリームが、使い心地と効果の両方で好まれたという結果があります。
2%のエクトイン入りクリームを使った人は、エクトインを抜いた同じクリームより、全体としてエクトイン入りのほうを好みました。試験中に副作用が出た人はいませんでした。
化粧品に入っているエクトインの濃度は製品ごとに違うので、成分表の並び順も見てみましょう。乾燥が気になる肌に、うるおいを与える成分の1つとして取り入れられます。
エクトインは、塩を好む菌がつくる環状アミノ酸
エクトインは、塩湖のように塩の濃い場所にすむ細菌が、体の水分を保つためにつくる、アミノ酸の仲間です。分子が輪のようにつながった形をしているので、環状アミノ酸と呼ばれます。
アスパラギン酸というアミノ酸からつくられ、分子量は142と小さな分子です。塩を好む光合成細菌の一種から、新しい環状アミノ酸として見つかったのが始まりで、化粧品の成分表には「エクトイン」と書かれます。
欧州では、エクトインは化粧品だけでなく医療機器にも使われています。アレルギー性鼻炎に使う点鼻スプレーや点眼薬、アトピー性皮膚炎の人向けのクリームなどです。点鼻スプレーは、2%のエクトインと天然の塩と水でできています。
ただし、欧州で医療機器として使われていることと、日本の化粧品に入ったエクトインで言えることは別です。化粧品で、鼻炎や目の症状、アトピーへの効果をうたうことはできません。かゆみや湿疹があるときは、皮膚科で相談するのが確実です。
高価とされるのは、菌につくらせて取り出す手間がかかるから
エクトインが高価とされるのは、菌を育ててつくらせ、取り出すのに手間がかかるからです。
工場では、まず塩分の濃い液で好塩菌の一種を育ててエクトインをため込ませ、次に塩分の薄い液に移して、その急な変化で菌の外へ出させます。菌から乳をしぼるように外へ出させることから、菌の乳しぼりと呼ばれる方法です。
菌の乳しぼりと呼ばれる、エクトインのつくり方です。
育てる
ためる
移す
集める
塩分の濃い液は発酵のタンクを傷めやすく、あとの排水の処理も大きな課題になります。区切りながら収穫するので、タンクの大きさのわりにとれる量が少なく、精製の手間も増えます。そのため、塩を好まない大腸菌に遺伝子を入れ、塩の少ない液でつくらせる方法も研究されています。
研究用の試薬は1gあたり8,700円ですが、これは実験に使う純度の高い試薬の値段で、化粧品の原料として取引される値段ではありません。高い成分が入っているからといって、よく効くとは限らない、と覚えておきましょう。
刺激や赤みが続くなら、使うのをやめる
エクトインの試験では重い副作用の報告はありませんが、一部でヒリヒリやピリピリとした刺激、赤みが出ています。こうした刺激は、多くが塗り始めだけでした。刺激や赤みが続くときは、使うのをやめましょう。
また、エクトインと紫外線を結びつけた説明を見かけることがありますが、エクトインは紫外線を吸収したり跳ね返したりする日焼け止めの成分ではありません。紫外線への対策は、日焼け止めに任せましょう。
エクトインは、保湿のための成分として、ほかのスキンケアと組み合わせて使うのがちょうどいい使い方です。
まとめ
- 肌の乾燥は、角層が水分を保てなくなって起きます
- エクトインは水の分子と強く結びつく、保湿成分の仲間です
- 健康な肌の試験では、2%のエクトイン入りクリームが使い心地と効果で好まれました
- 欧州の医療機器にも使われますが、化粧品で言えるのはうるおいを与え、乾燥や肌荒れを防ぐ範囲です
- 高価とされるのはつくり方の手間のためで、刺激や赤みが続くときは使うのをやめます
エクトインは、化粧品では保湿成分の仲間として、うるおいを与え、乾燥や肌荒れを防ぐ範囲で見ておくのが確かです。乾燥が気になるときの選択肢の1つにしてみてください。
よくある質問
エクトインは肌に何をする成分ですか?
水の分子と強く結びつき、まわりの水の層を保つとされる保湿成分です。化粧品では、うるおいを与え、乾燥や肌荒れを防ぐ範囲で使われます。
エクトインはアトピーに効きますか?
化粧品でアトピーへの効果はうたえません。欧州ではアトピー性皮膚炎の人向けの医療機器のクリームにも使われていますが、化粧品とは別の製品です。かゆみや湿疹があるときは皮膚科で相談しましょう。
エクトインは日焼け止めの代わりになりますか?
なりません。エクトインは紫外線を吸収したり跳ね返したりする日焼け止めの成分ではないので、紫外線対策は日焼け止めで行いましょう。
エクトインはなぜ高いのですか?
菌に塩の濃い液でつくらせ、塩の薄い液へ移して外へ出させる手間がかかるからです。塩でタンクが傷みやすく、排水の処理も大変で、一度にとれる量も少なくなります。
エクトインで肌に刺激が出ることはありますか?
重い副作用の報告はありませんが、一部でヒリヒリや赤みなどの軽い刺激が出ています。多くは塗り始めだけですが、続くときは使うのをやめましょう。
この記事で参照した情報
- 厚生労働省「化粧品の効能の範囲の改正について」(平成23年7月21日 薬食発0721第1号)
- 東京化成工業 製品情報「エクトイン」(製品番号 E1372、2026年9月確認)
- マツモト交商 原料情報「RONACARE ECTOIN」
- Galinski EA, Pfeiffer HP, Trüper HG. 1,4,5,6-Tetrahydro-2-methyl-4-pyrimidinecarboxylic acid. A novel cyclic amino acid from halophilic phototrophic bacteria of the genus Ectothiorhodospira. Eur J Biochem 1985;149:135-139(書誌は3 Biotech 2022の総説の引用文献欄)
- Liu M, et al. Microbial production of ectoine and hydroxyectoine as high-value chemicals. Microb Cell Fact 2021;20:76
- Schubert T, et al. Appl Environ Microbiol 2007;73(10):3343-3347
- Graf R, Anzali S, Buenger J, Pfluecker F, Driller H. The multifunctional role of ectoine as a natural cell protectant. Clin Dermatol 2008;26(4):326-333
- Bilstein A, et al. The Effectiveness of the Bacteria Derived Extremolyte Ectoine for the Treatment of Allergic Rhinitis. BioMed Res Int 2021:5562623
- Heinrich U, Garbe B, Tronnier H. Skin Pharmacol Physiol 2007;20(4):211-218
- Kauth M, Trusova OV. Topical Ectoine Application in Children and Adults to Treat Inflammatory Diseases Associated with an Impaired Skin Barrier: A Systematic Review. Dermatol Ther (Heidelb) 2022;12(2):295-313
- Werkhäuser N, Bilstein A, Sonnemann U. Treatment of Allergic Rhinitis with Ectoine Containing Nasal Spray and Eye Drops in Comparison with Azelastine Containing Nasal Spray and Eye Drops or with Cromoglycic Acid Containing Nasal Spray. J Allergy (Cairo) 2014:176597
- 国立健康・栄養研究所「セラミド(N-アシルスフィンゴシン)」素材情報
この記事が入っているテーマ別まとめ