この記事でわかること
- ガラクトミセス培養液の正体と、成分表での名前
- 発酵エキスが角層にうるおいを与える働きと、ヒトで試した結果
- 生きた菌や浸透の話が当てはまらない理由
「発酵エキス配合」「発酵化粧品」という言葉をよく見かけるけれど、発酵させた成分が肌に何をしてくれるのか、ふつうの保湿成分と何が違うのか、気になりますよね。
結論から言うと、発酵エキスは、角層にうるおいを与える保湿成分のひとつです。酵母や乳酸菌を育てたあとの液や、菌で豆乳や乳製品を発酵させた液からとった成分で、化粧品として言えるのは、肌にうるおいを与える、キメを整えるといった範囲です。瓶の中の生きた菌が肌で働くわけではありません。まずは、発酵エキスがどうやってできるのかから見ていきましょう。
発酵エキスは、菌を育てた液や菌で発酵させた液からとった成分
発酵エキスは、酵母や乳酸菌などの菌を育てた液や、菌を豆乳や乳製品といった材料に働かせてできた液からとった成分の呼び名です。
たとえば乳酸菌発酵エキスは、脱脂粉乳を溶かした水を乳酸菌で発酵させ、固形物をろ過したエキスです。原料をつくる途中では、加熱やごく細かいフィルターでのろ過などが行われます。
完成した化粧品に入っているのは、生きた菌ではなく、菌がつくったものや菌の成分です。
発酵させる
ろ過をする
化粧品に
だから発酵エキスに入っているのは、菌そのものではなく、菌がつくったものや菌の成分です。
発酵エキスの働きは、角層にうるおいを与えること
発酵エキスの働きは、ほかの保湿成分と同じように、角層にうるおいを与えることです。発酵エキスには、アミノ酸やタンパク質、有機酸、糖類、ビタミン類などが含まれていて、保湿や肌荒れを防ぐ働きが期待できるとされているからです。
まず、肌の乾燥がどこで起きるのかを見ておきましょう。肌のいちばん外側の角層は、3つの要素でうるおいを保っています。
角層は、この3つのバランスでうるおいを保っています。
- 1皮脂膜 肌の表面をおおう、皮脂と汗の膜
- 2天然保湿因子 角層の細胞の中で、水を抱える
- 3細胞間脂質 細胞のすき間を埋めて、水分を逃がさない。約50%はセラミド
このバランスが崩れたり、乾いた空気にさらされたりすると、角層の水分が逃げて、かさつきや肌荒れにつながります。
発酵エキスは、ここに保湿成分として加わり、角層にうるおいを与える側から支えます。乳酸菌発酵エキスも、乳酸やアミノ酸を含む成分です。
発酵エキスは保湿成分として、角層にうるおいを与える側から働きます。
実際に、ガラクトミセス培養液を含む製品を使い続けると、角層の水分量が増え、肌から蒸発していく水分の量が減ったという結果があります。酵母の発酵物のろ過液を塗ると、毛穴やキメの粗さ、色むら、赤みが目立ちにくくなったという結果もあります。また、ビフィズス菌の一種を壊して中身を出した溶解物を含むクリームを使うと、肌の過敏さが下がり、乾燥も減ったという結果があります。
化粧品として表示できるのは「皮膚にうるおいを与える」「肌のキメを整える」「肌荒れを防ぐ」といった範囲で、発酵させた成分だけに特別な効能が認められているわけではありません。発酵エキスは、うるおいを与える成分のひとつとして選びましょう。
ガラクトミセスは、チーズの酵母の仲間
ガラクトミセスと聞くと、日本酒の酵母だと思っている人も多いと思います。でも、ガラクトミセスは、カマンベールなどのチーズの熟成に使われる酵母と同じ菌を指す名前で、清酒をつくる酵母とは別の菌です。
この酵母は、水や空気、土、穀物、熟した果物、牛乳などにも見られ、チーズの表面ではとくによく見つかります。化粧品の原料としては、ガラクトミセスの仲間のうち3種が挙がっています。
一方、清酒の酵母として知られるきょうかい7号は、サッカロミセスという別の仲間の酵母です。ガラクトミセス培養液は、チーズの酵母の仲間を育てた液と覚えておきましょう。
成分表の名前で、菌と材料がわかる
発酵エキスは、成分表の名前を見ると、どの菌と材料からできたものかがわかります。成分表の名前のつけ方に決まりがあるからです。
発酵にあたる言葉は、原則として「発酵物」「発酵液」か「培養物」「培養液」と訳します。菌を材料に働かせた発酵液から乾燥や抽出で得たものが発酵物、特定の菌を得るために育てた菌の液やそのろ過物が培養物です。
- 〇〇培養液:菌を育てた液や、それをろ過したもの。例:ガラクトミセス培養液
- 菌/材料発酵エキス:斜線の前が菌、後ろが発酵させた材料。例:乳酸桿菌/ダイズ発酵エキス
- 〇〇溶解質:菌の体を壊して中身を出したもの。例:ビフィズス菌培養溶解質
ガラクトミセス培養液を主にした美容液では、配合量の多い順に書く決まりのとおり、ガラクトミセス培養液が成分表の先頭にきて、BGなどの保湿成分や水、防腐剤が続きます。名前を見たら、斜線の前が菌、後ろが材料と読みましょう。
完成した化粧品に、生きた菌はいない
「菌」と聞くと、肌に生きた菌をのせるようで不安になりますよね。でも、発酵化粧品に入っているのは、生きた菌ではなく、菌がつくったものや菌の成分です。
酵母が生きられるのは50℃未満です。原料をつくる途中では、80℃での処理や、ごく細かいフィルターでのろ過、防腐剤の添加などが行われるため、完成した化粧品に生きた酵母はいないとされています。乳酸菌の発酵物も、ふつうは加熱などで菌を死なせています。製品には、ほかの化粧品と同じように防腐剤も入っています。
安全性では、ガラクトミセス培養液を多く含む美容液を肌に繰り返し貼る試験で、かぶれの反応は出なかったという結果があります。乳酸菌の発酵成分4種も、アメリカの化粧品成分の専門家委員会が、今の使い方と濃度で安全と結論づけています。それでも、どんな化粧品でも肌に合わないことはあるので、赤みやかゆみが出たら使うのをやめましょう。
アメリカでは、洗い流さない保湿製品にガラクトミセス培養液が最大90.7%使われた例がありますが、これはいちばん多い例で、濃いほどよいという意味ではありません。商品で発酵エキスの名前が目立つように書かれているときは、配合の目的を添えるのが業界の広告の決まりで、「整肌保湿成分」のような注がつくのはそのためです。発酵化粧品は、ほかの化粧品と同じ感覚で使ってかまいません。
発酵で分子が小さくなっても、化粧品の「浸透」は角層まで
発酵で分子が小さくなるから、肌の中までよく届くと思いますよね。でも、化粧品の広告で「浸透」と書けるのは角質層までです。化粧品の働きは、角層までの話だからです。
発酵によって、大きな分子が小さな分子に分かれることはあります。たとえばアロエでは、発酵前は分子量20万〜30万だった多糖の一部が、発酵後に分子量600〜900になったとされています。ただ、発酵の話でいう「利用しやすさ」は栄養としての話で、肌に入る量のことではありません。
分子の大きさは、肌への入りやすさを決める条件のひとつにすぎません。分子量が1,000以上だと吸収は少なくなるとされますが、同じ物質でも何に溶かして塗るかで吸収は大きく変わります。発酵エキスも、角層をうるおす成分として見ておきましょう。
「プロバイオティクス化粧品」という言い方は正確ではない
「プロバイオティクス化粧品」という言い方は、正確ではありません。プロバイオティクスは、適切な量をとったときに健康に役立つ生きた微生物のことで、生きた菌がいない化粧品の発酵成分には当てはまらないからです。
生きていない菌やその成分でできたものは、ポストバイオティクスと呼ばれることがあります。ただしその条件は、菌の体の成分が残っていることと、比べる相手のある試験でヒトへの働きが確かめられていることです。菌の体やその成分が残らないように精製したものは、ポストバイオティクスには当たらないとされています。
発酵エキスで肌の菌のバランスが整う、という話も化粧品の範囲を超えています。化粧品の効能の範囲は56項目で、菌のバランスを整えるという項目はありません。肌にすみついている常在菌がいることと、化粧品で菌をどうにかできることは、分けて考えましょう。
まとめ
- 発酵エキスは、菌を育てた液や菌で材料を発酵させた液からとった、うるおいを与える成分です
- 角層にうるおいを与え、ガラクトミセス培養液では角層の水分量が増えたという結果があります
- ガラクトミセスはチーズの熟成に使う酵母の仲間で、清酒の酵母とは別の菌です
- 成分表の斜線の前は菌、後ろは発酵させた材料で、完成品に生きた菌はいません
- 化粧品の「浸透」は角質層までで、菌のバランスを整えるという効能は化粧品にはありません
発酵エキスは、ほかの保湿成分と同じように、角層にうるおいを与える成分のひとつです。成分表の名前で、どの菌と材料からできたものかを確かめてみてください。
よくある質問
ガラクトミセスは日本酒の酵母ですか?
違います。ガラクトミセスはチーズの熟成に使われる酵母の仲間で、清酒の酵母とは別の菌です。清酒の酵母として知られるきょうかい7号は、サッカロミセスという別の仲間の酵母です。
発酵化粧品には生きた菌が入っていますか?
入っていません。酵母が生きられるのは50℃未満で、原料は加熱やろ過などで処理されるため、完成した化粧品に生きた酵母はいないとされています。乳酸菌の発酵物も、ふつうは加熱などで菌を死なせています。
発酵で分子が小さくなると、肌の中まで浸透しますか?
化粧品の広告で浸透と書けるのは角質層までです。分子の大きさは肌への入りやすさを決める条件のひとつで、何に溶かして塗るかでも吸収は大きく変わります。
発酵エキスの効果はヒトの試験で確かめられていますか?
ガラクトミセス培養液を含む製品を使い続けると、角層の水分量が増え、肌から蒸発する水分が減ったという結果があります。ビフィズス菌の溶解物を含むクリームでは、乾燥や肌の過敏さが減ったという結果があります。
発酵エキスで肌の常在菌のバランスは整いますか?
化粧品の効能としては言えません。化粧品の効能の範囲に菌のバランスを整えるという項目はなく、言えるのは肌にうるおいを与えるなどの範囲です。
この記事で参照した情報
- 国立健康・栄養研究所「セラミド(N-アシルスフィンゴシン)」素材情報
- 日本化粧品技術者会(SCCJ) 化粧品用語集「天然由来成分」
- ヤクルト中央研究所「健康用語の基礎知識:乳酸菌発酵エキス」
- 厚生労働省「化粧品の効能の範囲の改正について」(平成23年 薬食発0721第1号)
- Miyamoto K, et al. J Clin Med 2021;10(11):2502(ガラクトミセス培養液製品のヒト試験)
- Miyamoto K, et al. J Clin Med 2022;11(8):2121(マスク着用下の保湿剤のヒト試験)
- J Clin Med 2023;12(3):1168(秋田市の女性86人による12か月のヒト試験)
- Fu, et al. Systematic review of cosmetic benefit of topical application of ferment filtrate. Surg Cosmet Dermatol 2023
- Guéniche A, et al. Bifidobacterium longum lysate, a new ingredient for reactive skin. Exp Dermatol 2010;19(8):e1-e8
- Perkins V, et al. Phenotypic and Genetic Characterization of the Cheese Ripening Yeast Geotrichum candidum. Front Microbiol 2020;11:737
- 製品評価技術基盤機構(NITE)「清酒酵母(Saccharomyces cerevisiae きょうかい7号)」
- 日本化粧品工業連合会「日本化粧品工業連合会表示名称作成ガイドライン」(平成14年2月27日)
- コスメデコルテ「リポソーム アドバンスト リペアセラム」商品ページ
- SK-II 楽天ストア 全成分表
- CIR. Safety Assessment of Yeast-Derived Ingredients as Used in Cosmetics(Tentative Report, 2024)
- CIR. Yeast-Derived Ingredients, Draft Final Report(2024-05-10)
- CIR. Safety Assessment of Lactobacillus Ferment Ingredients as Used in Cosmetics(Draft Report, 2025-05-16)
- CIR. Lactobacillus Ferment Ingredients, Draft Final Report(2025-08-15)
- 日本化粧品工業会「化粧品等の適正広告ガイドライン 2020年版」
- Majchrzak W, Motyl I, Śmigielski K. Biological and Cosmetical Importance of Fermented Raw Materials: An Overview. Molecules 2022;27(15):4845
- Pérez-Rivero C, López-Gómez JP. Unlocking the Potential of Fermentation in Cosmetics: A Review. Fermentation 2023;9(5):463
- 日本化粧品技術者会(SCCJ) 化粧品用語集「経皮吸収」
- 日本化粧品工業会 適正広告研究部会の解説資料(京都府薬務課サイト掲載)
- 米国NIH ODS「Probiotics: Fact Sheet for Health Professionals」(2025-03-25更新)
- ISAPP「The Concept of Postbiotics」
- Vinderola G, et al. Frequently asked questions about the ISAPP postbiotic definition. Front Microbiol 2024