この記事でわかること
- ラノリンの正体と、角層での働き
- ワセリンとの違いと、医薬品・授乳中のケアでの使われ方
- かぶれが起きやすい条件と、安全性の評価
クリームやリップの成分表で「ラノリン」を見かけて、何からできているのか、ワセリンと何が違うのか、かぶれたりしないのか気になりますよね。
結論から言うと、ラノリンは羊の毛につく脂を精製した油で、肌や唇の表面をおおって乾燥を防ぐために入っています。かぶれの原因になることもありますが、起こりやすいのは傷んだ肌に長く塗る場合です。まずは、ラノリンがどんなものかから見ていきましょう。
ラノリンは、羊の毛につく脂を精製した「羊毛脂」
ラノリンは、羊の皮脂腺から出て毛につく脂を、精製した成分です。「羊毛脂」ともよばれ、医薬品の規格でも、羊の毛から得た脂肪のようなものを精製したもの、とされています。
羊の毛を洗うときに出る脂を、分けて精製したものがラノリンです。
脂がつく
脂を落とす
分ける
羊の毛を洗うときに落ちた脂を、遠心分離で分けて回収し、さらに精製してつくります。見た目は淡い黄色から黄褐色の、粘りのある軟膏のような物質で、わずかに独特のにおいがあります。
オリーブ油などの植物油とは違い、トリグリセリドが主成分の油脂ではありません。中心になっているのは、高級アルコールやステロールに脂肪酸が結びついたエステル、つまり「ろう」です。そこにアルコールや脂肪酸、炭化水素などが混ざった、複雑な混合物です。水には溶けないのに、水を抱え込んで軟膏のようになる性質があり、水と油を合わせたクリームや軟膏の土台に向いています。
化粧品の成分表では、そのまま「ラノリン」と書かれます。仲間には「ラノリンアルコール」や「水添ラノリン」などがあり、成分表ではそれぞれ別の成分として書かれます。医薬部外品では、ラノリンやその仲間は今も、成分の名前を表示しなければならない成分に入っています。
つまりラノリンは、羊の皮脂からできた、ろうが中心の油です。
乾燥は、角層の水分が表面から逃げること
肌の乾燥は、肌のいちばん外側の角層から水分が逃げて、うるおいが足りなくなることで起きます。ラノリンの働きを知るには、角層がどうやってうるおいを保っているかを先に見ておくとわかりやすいです。
角層は、この3つのバランスでうるおいを保っていて、いちばん外側を皮脂膜がおおっています。
- 1皮脂膜 肌の表面をおおう、皮脂と汗の膜
- 2天然保湿因子 角層の細胞の中で、水を抱える
- 3細胞間脂質 細胞のすき間を埋めて、水分を逃がさない。約50%はセラミド
角層では、表面をおおう皮脂膜、細胞の中で水を抱える天然保湿因子、細胞のすき間を埋める細胞間脂質の3つが、うるおいを守っています。細胞間脂質の約50%はセラミドです。いちばん外側の皮脂膜が足りないと、角層の水分は表面から逃げやすくなり、かさつきや荒れにつながります。
乾燥を防ぐには、表面から水分を逃がさないことが大事になります。ここで働くのがラノリンです。
ラノリンは、表面をおおって水分を逃がさない
ラノリンは、肌の表面に油の膜をつくって、角層の水分が逃げるのを防ぐ成分です。粘りのある油が皮脂膜のように表面をおおうので、水分が蒸発しにくくなるからです。
ラノリンは肌の表面に油の膜をつくり、角層の水分が逃げるのを防ぎます。
そのため、化粧品として言えるのは、肌や唇のうるおいを保ち、乾燥や荒れを防ぐといった範囲です。ラノリンが働くのは表面と角層までで、広告で「浸透」と書かれていても、届くのは角層までの話です。
乾燥が気になる肌に、水分を逃がさないふたの油として使うのが、ラノリンのいちばん向いている使い方です。
リップに使われるのは、唇には皮脂膜がないから
ラノリンが口紅やリップクリームによく使われるのは、唇が乾きやすく、油分でふたをするケアが向いているからです。唇には皮脂膜がなく、角層もうすいので、水分が逃げやすい場所です。
粘りのあるラノリンは、唇の表面をおおうリップの油分に向いています。ただ、ラノリンでかぶれた人の原因になった製品の中には、口紅やリップバームも含まれていました。
リップを塗るたびに唇の荒れやかゆみがひどくなるなら、成分を見直して皮膚科に相談しましょう。
ワセリンとの違いは、原料と、水を抱え込めるかどうか
どちらも「ふたをする油」なので、何が違うのか迷う人は多いと思います。ワセリンとラノリンの大きな違いは、原料と、ラノリンは水を抱え込めるのにワセリンは水をほとんど抱えないことです。
ワセリンは石油を精製した半固形の油で、中身は炭化水素の混合物です。一方のラノリンは、羊の毛の脂からとる動物由来の成分で、ろうやステロール、アルコールなどが混ざっています。ラノリンが水と油を合わせた軟膏やクリームの土台に使われるのは、水を抱え込めるこの性質のためです。
共通しているのは、どちらも肌の表面をおおって、水分が蒸発するのを防ぐ油だということです。違いが出やすいのは、かぶれの起こりやすさです。ラノリンはワセリンに比べてかぶれの報告が多く、皮膚科の基本の検査項目にも入っています。
ラノリン入りの製品が合わなかった人は、ラノリンを含まないワセリンなどを選ぶという考え方もできます。
医薬品の精製ラノリンは、軟膏の土台
医療用の医薬品の「精製ラノリン」は、病気に効く薬ではなく、軟膏をつくるときの土台です。日本薬局方の精製ラノリンの効能は、薬局などで軟膏をつくるときの軟膏基剤として調剤に使うことだからです。
添付文書には、副作用として接触皮膚炎、つまりかぶれが、頻度不明として記載されています。
同じラノリンでも、どの区分の話かで言えることが変わります。化粧品では乾燥を防ぐ油分、医薬部外品では名前の表示が必要な成分の一つ、医薬品では軟膏の土台です。医療の場で使われていることを、化粧品のラノリンの効果と同じに考えないようにしましょう。
授乳中の乳頭に塗るラノリンは、痛みより使い心地のためのもの
授乳中の乳頭の痛みや傷のケアに、ラノリンのクリームがすすめられているのを見ると、塗れば痛みが早く引くのかと思いますよね。授乳中の乳頭に塗るラノリンは、痛みを早く引かせるものではなく、使い心地や乾燥を防ぐためのものと考えましょう。
乳頭に傷のある人がラノリンを塗っても、その後の痛みは、ふつうのケアだけの場合と変わらなかったという結果があります。差が出たのは、使った人の満足度が高かったことです。何も塗らない、あるいは搾った母乳を塗るだけでも、ラノリンのような軟膏と同じくらい役立つかもしれない、という見方もあります。どの方法でも、多くの人の痛みは産後の日がたつにつれて軽くなるとされています。
授乳と薬の情報をまとめた米国のデータベースでは、出産前から塗っておいても効果はないとされています。授乳用の高純度のラノリンは、農薬や洗浄剤の残りを除き、混ざっている遊離のアルコールを減らしたものですが、それでも羊毛のアレルギーがわかっている人は避けるべきとされています。
赤ちゃんの肌に塗る場合は、ラノリンのかぶれはアトピー性皮膚炎の子どもで起こりやすいとされることも知っておきましょう。赤ちゃん用として売られている製品を表示どおりに使い、赤みやかゆみが出たらやめて医師に相談します。
乳頭の痛みが強い、傷がなかなかよくならない、赤みや熱があるときは、塗り続けずに助産師や医師に相談してください。
かぶれは、傷んだ肌に長く塗ると起きやすい
ラノリンのかぶれは、健康な肌ではまれで、湿疹や傷のある肌に長く塗ると起きやすくなります。かぶれた人の多くが、足の潰瘍やアトピー性皮膚炎など、傷んだ肌に長く塗り続けていた人だからです。
日本の皮膚科でかぶれの原因を調べるパッチテストでは、基本として調べるアレルゲンの組み合わせに、パラベンや香料などと並んで「ラノリンアルコール」が入っています。米国接触皮膚炎学会は、ラノリンを2023年の「今年のアレルゲン」に選びました。
ただ、パッチテストで陽性になる人の割合は、皮膚炎があって検査を受けた人の中での割合で、一般の人がかぶれる割合ではありません。米国の化粧品成分の専門家パネルも、一般の人でのラノリンのアレルギーは非常にまれだとしています。
この食い違いは「ラノリンのパラドックス」とよばれています。健康な肌に化粧品として使ってもまずかぶれないのに、炎症のある肌に塗る薬ではかぶれることがある、という考え方です。かぶれやすいのは、足の潰瘍やうっ滞性皮膚炎で長く外用薬を使う高齢の人や、アトピー性皮膚炎の子どもとされます。主な原因は、ラノリンに混ざっている遊離のラノリンアルコールで、ラノリンそのままのパッチテストでは見逃されやすいことも知られています。
ラノリン入りの製品で赤みやかゆみが出たら、使うのをやめ、皮膚科でパッチテストを相談しましょう。一度かぶれたことがある人は、成分表でラノリンやその仲間の名前を確かめると選びやすくなります。
今の使い方と濃度なら、化粧品に使って安全とされている
「動物の脂」と聞くと、危なくないのか心配になる人もいると思います。米国の化粧品成分の専門家パネルは、ラノリンやラノリンアルコール、水添ラノリンなど9つの成分について、今の使い方と濃度なら化粧品に使って安全と結論しています。
その中で、高度に精製すると、アレルギーになるリスクが下がることにもふれています。一方で、動物由来の原料なので、感染の原因になるようなものが検出されないことが必要だと強調し、重金属への懸念も示しました。
安全という評価は、今の使い方と濃度を前提にしたもので、どんな肌にも合うという意味ではありません。危険と決めつける必要はありませんが、湿疹や傷のある肌に長く塗るときや、合わないと感じたときは、使うのをやめて皮膚科に相談しましょう。
まとめ
- ラノリンは、羊の毛につく脂を精製した成分で、別名は羊毛脂。ろうを中心とした混合物です
- 肌の表面に油の膜をつくり、角層の水分が逃げるのを防ぎます。皮脂膜のない唇のリップにも向いています
- ワセリンは水をほとんど抱えず、ラノリンは水を抱え込めます。医薬品の精製ラノリンは軟膏の土台です
- 授乳中の乳頭に塗っても痛みはふつうのケアと変わらず、使い心地のためのものと考えます
- かぶれは傷んだ肌に長く塗ると起きやすく、今の使い方と濃度なら化粧品に使って安全とされています
ラノリンは、羊の皮脂からできた、水分を逃がさないふたの油です。健康な肌には乾燥を防ぐ油分として使い、合わないと感じたらやめて相談する、と覚えておけば安心です。
よくある質問
ラノリンとはどんな成分で、効果は?
羊の毛につく脂を精製した、動物由来の油性の成分です。「羊毛脂」ともよばれ、ろうを中心とした混合物です。肌や唇の表面に油の膜をつくって、角層の水分が逃げるのを防ぎ、うるおいを保ちます。
ワセリンとラノリンの違いは?
原料と、水を抱え込めるかどうかが違います。ワセリンは石油由来の炭化水素で水をほとんど抱えず、ラノリンは羊の毛の脂で水を抱え込めます。どちらも表面をおおって水分の蒸発を防ぐ点は同じで、かぶれの報告はラノリンのほうが多い成分です。
ラノリンでアレルギーが起きることはありますか?
あります。起きやすいのは湿疹や傷のある肌に長く塗る場合です。日本の皮膚科のパッチテストでは、ラノリンアルコールが基本の検査項目に入っています。一方で一般の人でのアレルギーは非常にまれとされ、米国の専門家パネルは今の使い方と濃度なら化粧品に使って安全と結論しています。
ニップルクリームのラノリンは乳頭の痛みに効きますか?
乳頭に傷のある人がラノリンを塗っても、その後の痛みはふつうのケアだけの場合と変わらなかったという結果があります。使った人の満足度は高かったので、使い心地のためのものと考えましょう。痛みが強い、傷が続くときは助産師や医師に相談してください。
ラノリンクリームは赤ちゃんに使っても大丈夫?
使うなら、赤ちゃん用の製品を表示どおりに使いましょう。ラノリンのかぶれは、アトピー性皮膚炎の子どもで起こりやすいとされます。赤みやかゆみが出たら使うのをやめ、医師に相談してください。
この記事で参照した情報
- 国立健康・栄養研究所「セラミド(N-アシルスフィンゴシン)」素材情報
- PMDA 医療用医薬品 添付文書「精製ラノリン」(2023年7月改訂 第1版)
- Johnson H, et al. Lanolin: The 2023 American Contact Dermatitis Society Allergen of the Year. Cutis 2023;112(2):78-81
- Wolf R. The lanolin paradox. Dermatology 1996;192(3):198-202(PMID 8726630)
- PMDA 添付文書「パッチテストパネル(S)」(2023年8月改訂 第1版)
- ラジオNIKKEI マルホ皮膚科セミナー「アレルギー性接触皮膚炎の原因製品とジャパニーズスタンダードアレルゲン陽性率」(2013年11月21日放送)
- Dennis C-L, Jackson K, Watson J. Interventions for treating painful nipples among breastfeeding women. Cochrane Database Syst Rev 2014, Issue 12(CD007366)
- Jackson KT, Dennis C-L. Lanolin for the treatment of nipple pain in breastfeeding women: a randomized controlled trial. Matern Child Nutr 2017(PMID 27477840)
- Allen KT. 同試験の博士論文(University of Toronto, 2014)
- LactMed「Lanolin」(Drugs.com 掲載版)
- CIR Post Meeting Announcement(第170回会合、2024年9月30日〜10月1日)
- CIR「Lanolin and Lanolin-Derived Ingredients」Re-Review for Panel Consideration(2023年5月)
- 厚生労働省「名称を記載しなければならない医薬部外品の成分の別名等について」(平成19年3月7日 薬食発第0307001号)
- コトバンク「ラノリン」(化学辞典 第2版、ブリタニカ国際大百科事典ほか)