この記事でわかること
- アトピー性皮膚炎の肌で起きていることと、治療の3本柱での保湿の位置づけ
- 処方の保湿剤と市販の保湿化粧品の違い、洗い方の基本
- 赤ちゃんの保湿の考え方と、化粧品・メイクの選び方
アトピー性皮膚炎の保湿を、どこまで市販の化粧品にまかせていいのか、保湿剤や化粧水をどう選べばいいのか迷いますよね。
結論から言うと、保湿は治療の大事な一部ですが、治療そのものは医師が決めるもので、化粧品が薬の代わりになることはありません。化粧品にできるのは肌にうるおいを与えて乾燥を防ぐことまでで、洗い方と保湿のタイミングを整えることが、治療を支える役目です。まずは、アトピー性皮膚炎の肌の中で何が起きているかから見ていきましょう。
アトピー性皮膚炎の肌は、角層が水分を保ちにくい
アトピー性皮膚炎の肌では、肌のいちばん外側の角層が、水分を保つしくみが弱くなっています。だから乾燥しやすく、外からの刺激も受けやすいのです。
角層は、表面をおおう皮脂膜、細胞の中で水を抱える天然保湿因子、細胞のすき間を埋める細胞間脂質の3つでうるおいを保っています。細胞間脂質の約50%はセラミドです。
角層は、この3つのバランスでうるおいを保っています。
- 1皮脂膜 肌の表面をおおう、皮脂と汗の膜
- 2天然保湿因子 角層の細胞の中で、水を抱える
- 3細胞間脂質 細胞のすき間を埋めて、水分を逃がさない。約50%はセラミド
日本皮膚科学会と日本アレルギー学会のガイドラインでは、アトピー性皮膚炎の肌ではセラミドの割合が異常に低くなり、細胞間脂質の働きが落ちて、水分を保つ力が損なわれるとされています。天然保湿因子のもとになるフィラグリンというたんぱく質も、生まれつきの遺伝子の変化や炎症によって少なくなることがあります。
角層の守りが弱いと、ふつうなら気にならない刺激にも反応しやすくなり、炎症も起きやすくなります。乾燥が気になって、つい何度も塗り重ねたくなる人も多いと思いますが、まずはこのしくみを知っておくと、保湿が治療の柱の一つになる理由がわかりやすくなります。
保湿は、薬・スキンケア・悪化因子対策という治療の3本柱の一つ
アトピー性皮膚炎の保湿は、ガイドラインで治療の基本とされる3つの柱のうちの1つです。薬で炎症を抑えるだけでも、保湿だけでも足りないからです。
3つの柱とは、炎症を抑える塗り薬などの薬物療法、皮膚の乾燥や守りの弱さに対する外用療法とスキンケア、そして症状を悪くするきっかけを探して避ける悪化因子の対策です。保湿は2つめのスキンケアに入ります。どれかで代わりにできるものではなく、3つを同時に進めます。
たとえば、塗り薬で炎症をいったん抑えても、スキンケアを怠ると炎症はすぐにぶり返しやすいとされています。日本皮膚科学会も、炎症を抑えることと、スキンケアをきちんと行うことの両方を、治療の大原則としています。肌の守りの働きについては、肌のバリア機能の記事で書いています。
保湿が担うのは、炎症を抑えたあとのぶり返しを防ぐことです。
治療に使う保湿剤は処方薬。市販の化粧品ができるのは「うるおいを与える」まで
アトピー性皮膚炎の治療に使う保湿剤は、皮膚科で処方される医薬品が基本です。医師が肌の状態を診て選び、塗る範囲や回数を決めるものだからです。
処方される保湿剤には、ヘパリン類似物質、尿素、白色ワセリンなどがあります。同じ成分の名前がついた薬用化粧品や化粧品とは、区分も効能も違います。保湿剤は、水分が逃げていく角層に水分を補い、逃げにくくして、乾燥を防ぎます。
保湿剤は角層に水分を補い、逃げにくくして、乾燥を防ぎます。
日本皮膚科学会の案内では、いわゆる保湿剤の中から使用感のよいものを選んで、1日2回塗ることがすすめられています。毎日続けられることが、保湿剤を選ぶうえでの大事な条件です。
いっぽう、市販の保湿化粧品ができるのは、化粧品の効能の範囲の「皮膚にうるおいを与える」「皮膚の乾燥を防ぐ」「皮膚を保護する」といったことまでです。化粧品に病気の治療や予防の効能をうたうことは認められていないので、「アトピー」や「湿疹」という病名を効能に書くことはできません。
乾燥を防ぐのは化粧品にもできますが、炎症を抑えるのは薬の仕事です。赤みやかゆみ、じゅくじゅくした部分に化粧品を自分の判断で塗り重ねず、皮膚科で治療を受けたうえで、化粧品を使うかどうかは主治医に相談しましょう。
洗い方は、泡立てて、こすらず、よくすすぎ、早めに保湿
洗い方の基本は、刺激の少ない石けんをよく泡立てて、こすらず洗い、しっかりすすいで、早めに保湿することです。洗い方も、スキンケアという柱の一部だからです。
毎日の入浴やシャワーで肌を清潔に保ち、刺激の少ない石けんで軽く洗います。石けんはよく泡立てて、強くこすらず、シワの間も丁寧に洗います。石けんの成分が肌に残ると刺激になって悪くなることがあるので、しっかりすすぎます。
洗うことと保湿は、ひと続きの手順です。
泡立てる
軽く洗う
すすぐ
保湿する
入浴やシャワーでは、肌を守るのに必要な皮脂も流れ落ちてしまいます。米国皮膚科学会も、入浴の直後、肌がまだ湿っているうちに保湿剤を塗ることと、乾いたと感じたときはいつでも保湿することをすすめています。
洗うことと保湿は、ひと続きの手順と考えましょう。
赤ちゃんの保湿は、予防ではなく乾燥を防ぐふだんのケア
「生まれてすぐから保湿すればアトピー性皮膚炎を防げる」という話を聞いて、赤ちゃんに毎日塗らなきゃ、と思いますよね。でも、赤ちゃんの保湿は、予防を約束するものではなく、乾燥を防ぐふだんのケアとして考えるのが安心です。研究によって結果が分かれているからです。
家族にアレルギーのある新生児に毎日保湿剤を塗ると、アトピー性皮膚炎になる赤ちゃんが少なかったという結果があり、この話のきっかけになりました。
いっぽう、その後の研究では、家族にアレルギーのある赤ちゃんに毎日保湿しても、湿疹になる割合はほとんど変わらず、皮膚の感染症がやや多い傾向もみられました。一般の赤ちゃんに保湿を続けた研究でも、発症は減りませんでした。
赤ちゃんの肌が乾いていれば保湿をし、湿疹が出たときは早めに皮膚科で治療を始めることが大切です。赤ちゃんの肌のケアで迷ったら、小児科や皮膚科に相談しましょう。
化粧品は、病名ではなく、かぶれにくさと続けやすさで選ぶ
市販の化粧品は、病名の表示ではなく、自分の肌でかぶれないかと、続けられるかで選びます。かぶれる成分は人によって違うからです。
香料や防腐剤でかぶれる人はいますが、どの成分でかぶれるかは一人ひとり違います。米国皮膚科学会は、保湿にはローションより無香料のクリームか軟膏をすすめ、防腐剤に敏感かもしれないと思ったら皮膚科医に相談するよう案内しています。日本の「無香料」や「低刺激」の表示には別のルールがあるので、表示の意味とかぶれのしくみは敏感肌と「低刺激」表示の記事を見てください。
新しい化粧品は、目立たない場所に少量から試し、赤みやかゆみが出たら使うのをやめて受診します。メイクを禁じる決まりはありませんが、赤みやじゅくじゅくなどの炎症がある部分はかぶれやすいので、治療中のメイクや化粧水の使い方は主治医に相談して決めましょう。
化粧品は、治療の土台の上で使うものと考えると、迷いが減ります。
まとめ
- アトピー性皮膚炎の肌は、セラミドが少なくなり、角層が水分を保ちにくくなっています
- 治療は薬物療法・スキンケア・悪化因子対策の3本柱で、保湿はスキンケアの一部です
- 治療に使う保湿剤はヘパリン類似物質・尿素・白色ワセリンなどの処方薬で、化粧品ができるのは「うるおいを与える」「乾燥を防ぐ」までです
- 洗い方は、泡立てて、こすらず、しっかりすすぎ、洗ったあと早めに保湿します
- 赤ちゃんの保湿は予防ではなく乾燥を防ぐケア。化粧品はかぶれにくさで選び、メイクは主治医に相談します
アトピー性皮膚炎は皮膚科で治療する病気で、化粧品はその土台の上で乾燥を防ぐ役目を担います。保湿剤の種類や化粧品の使い方で迷ったら、自分の判断で重ねる前に主治医に聞いてみてください。
よくある質問
アトピー性皮膚炎に保湿は必要ですか?
必要です。日本のガイドラインでは、薬物療法、保湿を含むスキンケア、悪化因子の対策が治療の3本柱とされています。炎症を薬で抑えたあと、スキンケアを怠るとぶり返しやすいので、使用感のよい保湿剤を1日2回塗ることが学会からすすめられています。
アトピーに市販の保湿化粧品や化粧水は使えますか?
化粧品にできるのは、肌にうるおいを与えて乾燥を防ぐことまでです。炎症を抑えるのは薬の仕事なので、赤みやかゆみ、じゅくじゅくした部分に自分の判断で塗り重ねず、皮膚科で治療を受けたうえで、化粧品を使うかどうかは主治医に相談します。
アトピーの保湿剤はワセリンだけでいいですか?
白色ワセリンは、ヘパリン類似物質や尿素と並んで皮膚科で処方される保湿剤の一つです。肌の状態を診た医師が選ぶものなので、何を塗るかは主治医と決めます。
赤ちゃんのうちから保湿すればアトピーを予防できますか?
研究によって結果が分かれていて、毎日保湿しても湿疹になる割合がほとんど変わらなかったという結果もあります。赤ちゃんの保湿は乾燥を防ぐふだんのケアと考え、湿疹が出たら早めに皮膚科に相談しましょう。
アトピー性皮膚炎でもメイクはできますか?
メイクを禁じる決まりはありません。ただし赤みやじゅくじゅくなどの炎症がある部分はかぶれやすいので、治療中のメイクや化粧品の使い方は主治医に相談して決めましょう。
この記事で参照した情報
- 日本皮膚科学会・日本アレルギー学会「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021」(日皮会誌131(13):2691-2777)
- Minds ガイドラインライブラリ「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2021」
- 日本皮膚科学会・日本アレルギー学会「アトピー性皮膚炎診療ガイドライン2024」(日皮会誌134(11):2741-2843)
- 日本皮膚科学会 皮膚科Q&A「アトピー性皮膚炎」Q24 スキンケアについて
- 厚生労働科学研究費 平成26年度報告書「アトピー性皮膚炎発症機序の解明と皮膚バリアケアによる予防法の開発に関する研究」(国立成育医療研究センター)
- Chalmers JR, et al. Daily emollient during infancy for prevention of eczema: the BEEP randomised controlled trial. Lancet 2020;395(10228):962-972
- Skjerven HO, et al. Skin emollient and early complementary feeding to prevent infant atopic dermatitis (PreventADALL): a factorial, multicentre, cluster-randomised trial. Lancet 2020;395:951-961
- 横浜市「アトピー性皮膚炎」(横浜市立みなと赤十字病院 監修、2026年1月28日更新)
- American Academy of Dermatology「Eczema types: Atopic dermatitis skin care」(2023年10月10日更新)
- American Academy of Dermatology「How can I find eczema friendly products?」
- 厚生労働省「化粧品の効能の範囲の改正について」(平成23年7月21日 薬食発0721第1号)
- 厚生労働省「医薬品等適正広告基準の解説及び留意事項等について」(平成29年9月29日 薬生監麻発0929第5号)
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