この記事でわかること
- モイスチャーバランスが何と何の釣り合いなのか
- 角層が水分を保つ3つのしくみの中身
- 3つの材料がどこでつくられるか
「モイスチャーバランス」という言葉を見かけても、何と何のバランスなのか、いまいちピンとこないですよね。
結論から言うと、モイスチャーバランスは、肌のいちばん外側の角層で、水と、水を抱える成分と、水を逃がさない脂が釣り合っている状態のことです。角層はこの3つを自分で用意して、体の水分を守っています。まずは言葉の意味から見ていきましょう。
モイスチャーバランスは、角層の水と油の釣り合いのこと
モイスチャーバランスは、角層の中の水と油を、セットで見る考え方です。医学の用語ではなく、化粧品の技術者の学会がまとめた用語集に項目がある言葉です。
何の釣り合いかは、資料によって少しずつ違います。用語集では、水分、肌にもともとある保湿成分の天然保湿因子(細胞の中で水を抱える成分)、脂質の3つです。皮膚科の手引きでは、同じしくみを、角層が水分を抱えておく働きと、皮脂や汗の膜が肌をおおう働きの2つとして説明しています。
数え方は違っても、どれも水と油をセットで見ている点は同じです。
角層は、皮脂膜・天然保湿因子・細胞間脂質の3つで水分を保つ
肌のいちばん外側にある角層は、皮脂膜、天然保湿因子、細胞間脂質の3つのしくみで、自分で水分を保っています。3つがそれぞれ別の場所で、水を逃がさない役目を受け持っているからです。
3つの要素が、別々の場所で水を守ります。
- 1皮脂膜 肌の表面をおおう、皮脂と汗の膜
- 2天然保湿因子 角層の細胞の中で、水を抱える
- 3細胞間脂質 細胞のすき間を埋めて、水分を逃がさない。約50%はセラミド
3つの中でも、天然保湿因子の役割がとりわけ大きいとされています。角層のうるおいは、3つの釣り合いで保たれていると覚えておきましょう。次の章から、1つずつ中身を見ていきます。
皮脂膜は、皮脂と汗が混ざってできた表面の膜
皮脂膜は、肌の表面で脂と汗や水分が混ざり合ってできた、うすい膜です。脂のもとは2つあり、1つは毛穴の中の皮脂腺(皮脂を出す小さな袋)から出る皮脂、もう1つは表皮の角化細胞(表皮の大部分をつくる細胞)から出る脂質です。
皮脂腺は毛に付属していて、皮脂は毛穴から表面に出てきます。表面に広がった脂は、汗や水分と乳化(水と油が細かく混ざること)した状態になり、肌をおおいます。この膜は、角層の水が空気へ蒸発するのを防ぎ、肌のしっとりした手ざわりにも関わっています。
皮脂膜は、角層の外側にかぶさる、水と油が混ざったふたです。
天然保湿因子は、細胞の中で水を抱える小さな分子の集まり
天然保湿因子は、角層の細胞の中にある、水を抱える小さな分子の集まりです。主な成分はアミノ酸で、水になじみやすい分子が細胞の中で水を引きとめています。
中身を割合で見ると、いちばん多いのはアミノ酸で約40%です。アミノ酸の中では、セリン、グリシン、アラニンが多くを占めます。ほかに、ピロリドンカルボン酸(アミノ酸から変わってできる分子)、乳酸、尿素がそれぞれ約8〜10%、カリウムやナトリウムなどのミネラルが約5%です。
アミノ酸のもとは、表皮の顆粒層(角層のすぐ下の層)でつくられるフィラグリンというたんぱく質です。角層のアミノ酸の組み合わせは、フィラグリンを形づくるアミノ酸の組み合わせとほぼ同じです。天然保湿因子は、角層の細胞の中にためられた、水を抱える粒です。
細胞間脂質は、脂と水が交互に重なってすき間を埋める
細胞間脂質は、角層の細胞のすき間で、脂の層と水の層が何枚も交互に重なった形をしています。この重なりをラメラ構造と呼び、水をはさみこんで逃がさない壁になります。
脂の層と水の層が、交互に重なっています。
細胞間脂質は角層の重さの約15%を占め、主な成分はセラミド、脂肪酸、コレステロールです。このうち約50%がセラミドです。脂肪酸は、炭素が22〜24個つながった長い脂肪酸が中心です。電子顕微鏡で見ると、すき間に縞模様が並んでいて、この縞がラメラ構造です。
セラミド、脂肪酸、コレステロールの割合は、ラメラ構造の形を左右します。細胞間脂質は、レンガのような角層の細胞をつなぐ、水をはさんだしっくいのような存在です。
3つの材料は、角層になる前の細胞が用意している
天然保湿因子と細胞間脂質の材料は、角層の中でつくられるのではなく、角層になる手前の細胞が用意しています。角層の細胞は、表皮の下で生まれた細胞が上へ押し上げられて変わったものだからです。
顆粒層の細胞は、フィラグリンのもとをケラトヒアリン顆粒という粒にためこみ、細胞間脂質のもとを層板顆粒という小さな袋にためこみます。細胞が角層に変わるとき、袋の中身がすき間に出されてラメラ構造になり、フィラグリンは分解されて天然保湿因子になります。この入れ替わりの流れはターンオーバーの記事で、角層の下の層まで含めた水の分布は肌の水分の記事で解説しています。
また、角層のいちばん外側の水分量は、まわりの空気の湿度と、角層が水を保つ働きの両方で決まります。モイスチャーバランスは、下の層の細胞の働きと、外の空気とのやりとりの上に成り立っているのです。
まとめ
- モイスチャーバランスは、角層の水と油をセットで見る考え方で、医学の用語ではありません
- 角層は、皮脂膜・天然保湿因子・細胞間脂質の3つで水分を保っています
- 皮脂膜は、皮脂腺の皮脂と角化細胞の脂質が、汗や水分と混ざってできた表面の膜です
- 天然保湿因子は約40%がアミノ酸で、もとは顆粒層でつくられるフィラグリンです
- 細胞間脂質は角層の重さの約15%で、約50%がセラミド。脂と水が交互に重なっています
モイスチャーバランスは、角層の表面、細胞の中、細胞のすき間の3か所で水を守るしくみの釣り合いです。肌のうるおいの話を読むときの、土台の知識にしてみてください。
よくある質問
モイスチャーバランスは何と何のバランスですか?
角層の水分、天然保湿因子、脂質の釣り合いです。資料によって数え方は少しずつ違いますが、どれも角層の水と油をセットで見ています。
角層はどうやって水分を保っていますか?
皮脂膜、天然保湿因子、細胞間脂質の3つで保っています。表面の膜、細胞の中、細胞のすき間と、3つが別々の場所で水を守っています。
皮脂膜は何でできていますか?
皮脂と脂質が、汗や水分と混ざってできています。脂は、毛に付属する皮脂腺から出る皮脂と、表皮の角化細胞から出る脂質の2つに由来します。
天然保湿因子は何でできていますか?
約40%がアミノ酸です。ほかにピロリドンカルボン酸、乳酸、尿素がそれぞれ約8〜10%、ミネラルが約5%です。アミノ酸のもとは顆粒層でつくられるフィラグリンです。
細胞間脂質のラメラ構造とは何ですか?
脂の層と水の層が交互に重なった構造です。セラミド、脂肪酸、コレステロールでできていて、角層の細胞のすき間で水をはさみこんでいます。
この記事で参照した情報
- 国立健康・栄養研究所「セラミド(N-アシルスフィンゴシン)」素材情報
- 日本化粧品技術者会(SCCJ) 化粧品用語集「モイスチャーバランス」
- 日本皮膚科学会「皮脂欠乏症診療の手引き2021」(日皮会誌131(10):2255-2270)
- 日本化粧品技術者会(SCCJ) 化粧品用語集「皮脂膜」
- 日本化粧品技術者会(SCCJ) 化粧品用語集「天然保湿因子」
- 日本化粧品技術者会(SCCJ) 化粧品用語集「角層細胞間脂質」
- 日本化粧品技術者会(SCCJ) 化粧品用語集「水分保持力」
- 日本化粧品技術者会(SCCJ) 化粧品用語集「角層水分量」
- Arezki NR, Williams AC, Cobb AJA, Brown MB. Design, synthesis and characterization of linear unnatural amino acids for skin moisturization. Int J Cosmet Sci 2017;39(1):72-82
- 北海道大学大学院医学研究院 皮膚科学教室 公開資料「1章 皮膚の構造と機能」
- 北海道大学 プレスリリース「皮脂ワックスエステルの詳細な組成と合成酵素を解明」(2026年2月4日)
この記事が入っているテーマ別まとめ