この記事でわかること
- 防腐剤が化粧品に入っている理由と、日本の上限
- パラベンが嫌われるようになった経緯
- 「無添加」「パラベンフリー」の読み方
「パラベンフリー」「防腐剤無添加」と書かれた化粧品を見ると、パラベンは避けたほうがいい悪者なのかと迷いますよね。
結論から言うと、パラベンは刺激が少なく、多くの化粧品で使われてきたふつうの防腐剤です。日本では使える防腐剤と量の上限が決まっていて、パラベン類は合計1%までです。嫌われるようになったのは、1980年に始まった表示のルールがきっかけでした。まずは、防腐剤がなぜ入っているのかから見ていきましょう。
防腐剤は、使い始めてから入る菌で中身が傷むのを防ぐために入っている
防腐剤が入っているのは、使い始めてから起きる微生物の汚染、つまり二次汚染を防ぐためです。化粧品は、微生物にとって増えやすい環境だからです。
化粧品は水と、保湿剤や油分といった栄養を含み、毎日指で触れられ、洗面所という湿った場所で何か月も使われます。二次汚染は、製造のときに起きる一次汚染とは別に、使う人の手指や使う場所から微生物が入りこみ、製品の防腐力で抑えきれないときに起こります。
防腐剤は、枠で囲んだ「増えるのを抑える」ところで、容器の中の菌に働きます。
洗面所
指で触れる
入りこむ
抑える
そこで、防腐剤や似た働きをもつ成分を入れたり、微生物の栄養になりにくい原料を選んだり、中身が戻りにくいチューブ容器を使ったりといった工夫がされています。防腐力は防腐効力試験で確かめられ、製品に細菌や酵母、かびを加えて、菌の数が日を追ってどれだけ減るかを観察して評価します。
防腐剤は入れたいから入るのではなく、使い切るまで安全に保つために必要な量だけ入る、というのが基本の考え方です。
日本では、リストに載った防腐剤だけを上限の範囲で使える
日本の化粧品に使える防腐剤は、化粧品基準の別表第3、いわゆるポジティブリストに載っているものだけで、それぞれ上限が決まっています。防腐剤は「別表第3に掲げる物でなければならない」と、国の化粧品基準で決められているからです。
100gあたりの上限は、たとえばパラベン類が合計で1.0g、フェノキシエタノールが1.0gです。安息香酸は0.2g、その塩類は合計で1.0g、ソルビン酸とその塩類、デヒドロ酢酸とその塩類はそれぞれ合計で0.50g、サリチル酸は0.20g、その塩類は合計で1.0gまでです。
この化粧品基準は2000年に国が告示したもので、防腐剤、紫外線吸収剤、法定色素については、厚生労働大臣がポジティブリストを設けています。リストに載った成分は、示された配合量の範囲内であれば化粧品に入れてよく、基準を守っていれば化粧品の原料として安全に使える、という意味になります。
上限があるのは、量が多くなると、防腐剤がもともともつ性質から、化粧品の定義である「作用が緩和なもの」から外れてしまうからです。つまり防腐剤は、作用が緩和なものの範囲に収まるよう、上限つきで認められている成分です。
パラベンは、刺激が少なく幅広く効く、標準的な防腐剤
パラベンと聞くと、危ない成分なのかと心配になる人は多いと思います。パラベンは、刺激が少なく幅広く効く、標準的な防腐剤です。サリチル酸や安息香酸に比べて毒性ははるかに低く、肌への刺激や過敏症も少ないとされているからです。
正式名はパラオキシ安息香酸エステルで、成分表示では「メチルパラベン」「プロピルパラベン」「エチルパラベン」「ブチルパラベン」のように書かれます。非常に幅広い微生物に効くため、ほとんどの種類の化粧品に防腐剤として使われ、化粧品の防腐剤としてはもっとも多く使われています。そのほかには安息香酸、ソルビン酸、デヒドロ酢酸など、食品の保存料と同じ安全性の高いものが使われます。
化粧品基準の上限は、パラベン類の合計で100gあたり1.0g、つまり1%です。実際の配合量はこの範囲内で、製品ごとの防腐効力試験にもとづいて決まります。くわしくはパラベンの記事で解説しています。
フェノキシエタノールは、エタノールとは別の防腐剤
名前に「エタノール」とつくので、アルコールの仲間だと思いますよね。でも、フェノキシエタノールは、お酒のアルコールであるエタノールとは別の成分の防腐剤です。「アルコールフリー」と書かれた製品にフェノキシエタノールが入っていても、表示のうえでは矛盾していません。
フェノキシエタノールは「パラベンフリー」の製品でよく使われる防腐剤で、上限はパラベン類と同じ100gあたり1.0gです。菌を抑える力が強く、とくにグラム陰性菌という種類の菌によく効くため、シャンプーやクリームなどに使われています。
そのほか、安息香酸やソルビン酸、デヒドロ酢酸とその塩は、食品の保存料と同じグループです。サリチル酸も別表第3に載っています。かつては香料が防腐剤の役割を果たしていたために、化粧品に防腐剤が入っていなかった時期もありましたが、今は香料だけで防腐剤の代わりをするのは難しいとされています。
防腐は昔から、何らかの形で必要だったのです。くわしくはフェノキシエタノールの記事で解説しています。
パラベンが嫌われたのは、1980年の表示のルールがきっかけ
ふつうの防腐剤なのに、なぜこんなに避けられるのか、不思議に思いますよね。パラベンが嫌われたのは、1980年の表示指定成分の制度がきっかけです。アレルギーを見分けるための表示の義務が、注意すべき成分のリストだと受け取られてしまったからです。
1980年9月、当時の厚生省は、パラベンや香料、合成界面活性剤、酸化防止剤、防腐剤など102種類、香料を含めると103種類の成分の表示を義務づけました。その目的は、消費者が買うときに、自分にアレルギーを起こす成分が入っていないかを見分けられるようにすることでした。対象は、人によってアレルギーなどの皮膚障害を起こすおそれがある成分で、危険な成分のリストではなく、あくまで表示の義務でした。
しかし当時はほかの成分に表示の義務がなかったため、表示されている成分は注意すべき成分だと受け取られ、「指定成分無添加」という売り方が生まれました。その代表格がパラベンでした。
パラベンが嫌われるようになってから、全成分表示に変わるまでの流れです。
表示の義務
誤解される
売り方
全成分表示
制度は2001年に変わり、厚生省の通知で承認制が廃止され、配合を禁止したり制限したりする成分のリストと、特定の成分群で使える成分のリストによる規制に移りました。同時に、入れたすべての成分の名前を表示する制度になり、安全性は企業の責任で確かめるものになりました。なお医薬部外品は、今も従来の103成分を表示する指定成分表示のままです。
パラベンが避けられるのは、成分の性質よりも、表示のルールが生んだ誤解が大きかったのです。
「無添加」「パラベンフリー」は、何が入っていないかを読む表示
「無添加」や「パラベンフリー」は、良い悪いではなく、何が入っていないか、代わりに何が入っているかを読む表示です。入っていないことは、安全や低刺激の保証にはならないからです。
日本化粧品工業連合会の広告ガイドラインは、単に「無添加」と書くのは、何を入れていないのかがわからない不正確な表現だとしています。入れていない成分を明らかにし、安全を保証するような言い方や他社をけなす言い方にならない範囲であれば認められていて、「100%無添加」のような強調や、「低刺激」など安全性について誤解を与える表現も避けるよう求めています。
また、「防腐剤無添加」と「防腐の設計がない」は別物です。防腐の対策には、防腐剤を入れる、防腐剤とはみなされないものの一定の防腐効果をもつ原料を入れる、小さな容器にするなど容器を工夫する、という3つの方法があります。表示上の防腐剤がゼロでも、何らかの形で防腐性は確保されているはずです。「パラベンフリー」の製品では、フェノキシエタノールなど別の防腐剤に置き換わっていることも多くあります。
パラベンで肌に合わなかった経験がある人が避けるのは、理にかなっています。そのうえで、自分に合うかどうかは、全成分表示を見て、成分ごとに確かめるのが確実です。
まとめ
- 防腐剤は、使い始めてからの微生物の汚染、つまり二次汚染を防ぐために入っています。防腐効力試験で必要な量が決まります
- 日本では化粧品基準のポジティブリストにある防腐剤しか使えず、パラベン類とフェノキシエタノールの上限はそれぞれ100gあたり1.0gです
- パラベンは毒性がはるかに低く、肌への刺激や過敏症も少ないとされる標準的な防腐剤です
- 「パラベン嫌い」の背景は1980年の表示指定成分の制度です。アレルギーを見分けるための表示の義務が、注意すべき成分と誤解されました
- 2001年から全成分表示になりました。「無添加」は、何が入っていないか、代わりに何が入っているかで読みます
防腐剤は、化粧品を最後まで安全に使うための成分です。避けるかどうかは「なんとなく怖い」ではなく、自分の肌との相性と、全成分表示で判断するのが現実的です。成分名は成分早見表でも引けます。
よくある質問
化粧品になぜ防腐剤が入っている?
使い始めてから手や周りの環境から入る微生物で、中身が傷むのを防ぐためです。必要な量は、菌を加えて減り方を調べる防腐効力試験で確かめます。
パラベンは危険な成分?
刺激が少なく、広く使われてきた標準的な防腐剤です。サリチル酸や安息香酸に比べて毒性ははるかに低く、肌への刺激や過敏症も少ない成分で、化粧品基準で合計1%までという上限があります。
パラベンフリーなら防腐剤は入っていない?
そうとは限りません。フェノキシエタノールなど別の防腐剤に置き換わっていることが多いので、全成分表示で確かめるのが確実です。
フェノキシエタノールはアルコール?
お酒のアルコールであるエタノールとは別の成分の防腐剤です。「アルコールフリー」の製品に入っていても表示上の矛盾はなく、上限はパラベン類と同じ100gあたり1.0gです。
パラベンが嫌われるようになったのはなぜ?
1980年に始まった「表示指定成分」の制度がきっかけです。アレルギーを起こす可能性のある成分を見分けるための表示の義務でしたが、「注意すべき成分」と受け取られ、「無添加」の売り方が広がりました。
この記事で参照した情報
- 厚生労働省「化粧品基準」(平成12年 厚生省告示第331号)
- 厚生省 医薬発第990号「化粧品規制緩和に係る薬事法施行規則の一部改正等について」(平成12年)
- 日本化粧品技術者会(SCCJ) 化粧品用語集「防腐剤」
- 日本化粧品技術者会(SCCJ) 化粧品用語集「パラオキシ安息香酸エステル」
- 日本化粧品技術者会(SCCJ) 化粧品用語集「フェノキシエタノール」
- 日本化粧品技術者会(SCCJ) 化粧品用語集「二次汚染」
- 日本化粧品技術者会(SCCJ) 化粧品用語集「防腐効力試験」
- 日本化粧品技術者会(SCCJ) 化粧品用語集「指定成分」
- 日本化粧品工業会「化粧品に配合可能な法定色素・防腐剤・紫外線吸収剤」
- 日本化粧品工業連合会「化粧品等の適正広告ガイドライン 2020年版」